Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■4■

―1―来訪


 時はすでに夜中の2時を越えていた。
 夏香は自宅のベットの上で、静かに座禅を組んでいた。
 服装は、ショートパンツに白Tシャツ、袖をまくった赤いジャケット。
 髪をポニーテールに結い、手には赤い手甲付きグローブをはめている。
 これが彼女にとっての戦闘スタイル。

「今夜、本気で参ります」

 この言葉が夏香の頭の中を通り抜ける。
 真紀という少女は夏香が思い出すだけでも、大半は変なことばかりである。
 おまけに真剣なのかふざけているのか、よく分からない節がある。

 だからこそ……なのだろう、『本気』で来るであろう真紀にこちらも本気で対応する必要がある。
 いつ来ても良いよいに気持ちを集中させ、身体が動く程度に緊張を作っている。


―ピンポーン―


 と、玄関のドアが鳴った。

 夏香は座禅を解くと、扉を開ける。

 そこには……。

「……何やってんの?」

 蹴りを放とうとして、そのままの格好で硬直した中尾の姿があった。

 中尾は構えを解くと、優雅に一礼した。

「失礼。
 夜分ゆえ、もしかしたら寝ているのでは、と思い、扉を蹴り破ろうとしていたところです」

「いやいやいや、夜分でも扉は蹴り破らないでよ」

「大丈夫ですよ。万が一破壊しても、修理費はもちろん夏香様が受け持ちますゆえ」

「私が払うかい!?」

 何となく、折角集中した気合を挫かれている気がしつつも、半眼で中尾の方を見る。

「んで、何? まさか、扉を破壊するために来た訳じゃないでしょ?」

「無論です」

 相変わらず優雅に一礼する。

「夏香様も分かっておられるでしょう……。
 私は貴方様を真紀様の元へお連れ致すために参りました」


 


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