Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■4■

―2―ライダーインストール


「案内するっても、徒歩かー」

 中尾を先頭に、夏香は街中を歩いていた。
 マンション・アパート地帯を抜け、商業ビルが密集している地域に差し掛かった。
 商業区には、『働くため』の場所はあっても『人が住む』住居は何も無い。
 深夜は実質的にゴーストタウンと言っても差し支えなかった。

「どこまで行くのよ?」

 と、中尾はこちらに顔を向けた。

「? 何?」

 夏香は訝しげに中尾を見返す。中尾はそれを無視して、夏香の全身をなめるように見ていた。
 腕、足、顔、耳、大きな胸……身体の全てを余すことなく見つめ回した中尾は、頭痛を我慢したような渋い顔をし、頭を左右に振った。

「やはり……」

「んん?」

「納得がいかない」

 ザッ、と中尾は夏香に全身ごと向けると、苛立ちと殺気を瞳に込めた。

「納得が行かないって、一体、何が納得いかないわけ?」

「静かにしていただけませんかね、チビザル!」

 怒気を含んだ中尾の言葉には、優雅の欠片も無かった。
 さすがの夏香も柳眉がピクリと動く。

「私の任務は、お前を真紀様のところに連れて行き、対等な勝負をさせることにある」

 だが、と言葉を付け加えると、唾を吐き出すジェスチャーをした。

「私はお前のようなメガネ猿が、真紀様と対等に闘うに足りる人物とは思えない」

「メガネ猿って……おいおい」

「真紀様は、お前のことを話すたびに、とても嬉しそうな顔をされる。
 私はあの方に仕えているが、あんな顔をするのは滅多に無いのだ」

「あの真紀が? へぇー」

 夏香はちょっと驚いた、といったふうに口を開いた。

「私は、何故、お前のような奴に、真紀様が心を動かすのが分からない。
 しかし、はっきり言おう! 私は貴様のようなメス豚を認めない!」

「はっきり言うねぇ」

 夏香は苦笑した。

「でもそれって、単に嫉妬じゃないの?」

「もし私のこの感情を嫉妬というならばそうだろ。
 だが、私はお前を評価しない。
 真紀様とあわせる前に……」

 瞬間、中尾の気が膨れ上がった。

「ここでお前を殺す……!」

 中尾の言葉に、夏香はニヤリっと笑った。
 両手のグローブの先端をお互いにぶつけると、彼に指を向ける。

「よーするに、刺客である真紀を倒すには、まずはあンたを倒せってことよね。
 どっちにしろ、退路なんて無いんだから、闘って進む!
 シンプル イズ ザ ベスト!
 非常に分かりやすい話よ!」

 ザン! と地面を踏みしめると、夏香は構えた。
 指で『come on!』と挑発する。

「さあ、瞬殺するよ!」

 中尾の目が細くなった。両手を大きく広げると絶叫する。

「ライダーインストール!!」


 


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