Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜
■4■
―3―マスク・ド・ライダー
| 「うっそぅ……」 思わず夏香が呟いた。 絶叫と共に中尾の姿は、人のそれから、異形の何かへと変貌した。 機械と獣を合わせたような黒色の肌、翼のように閃くマント。甲冑のような顔。 例えるならば……特撮番組の主人公がリアルにそこにいるようだった。 変貌した中尾の一歩が地面にめり込んだ、と思った刹那……。 (速い!?) 大きく振りかぶられた拳が夏香の目の前にあった! 心が悲鳴をあげる前に夏香の身体はすでに真横に飛びのけていた。 中尾の拳が鋭く鈍い音をたてながら地面を大きくえぐり取る。 態勢を整えつつ、夏香は中尾を省みた。 中尾もまた、腕振るいしながら、構えを作っていた 「や、やるわねー。見た目と裏腹に……いや『見た目どおり』かな」 「パワーもスピードも私が上だ。残念ながら、猿に勝てる要素は無い」 仮面の下から余裕の音を含んだ言葉の音色が流れる。 ところが夏香はちっちっち、と指を振った。 「パワーとスピードが上な『だけ』じゃ、私には勝てないよ」 夏香が喋り終わるか否かの瞬間、中尾が動いた。 圧倒的なスピードで間合いを一気に縮め、勢いに任せ蹴りを放つ。 伸びきった上段蹴りが夏香に炸裂した! 「!?」 中尾はハっとした。 手ごたえが無い。 そう思ったときには、相手の体が消えていた。 煙となって。 同時に背後に現れた夏香が、中尾の背中に拳を叩き込んでいた! ―忍法変わり身の術― よろめく中尾に向かって、さらに間合いを詰め蹴りを放つ夏香。 その動きに合わせ、中尾も強引な姿勢で裏拳を繰り出す。 蹴りが中尾にヒットし、その上体を僅かにずらす。 その僅かなずれのため、裏拳は夏香の顔面から外れた。 だが。 金属音と共に、夏香のメガネに横一線にヒビが走る。 夏香の鼻から、血が噴出した。 そのまま力任せに態勢を整えると、再び夏香に向かって一気に詰め寄った。 「悪あがきがいつまで持つか!」 顔面を狙って肘を放つ。 夏香はそれをガードするのではなく、横へと受け流した。 直後、彼女の膝が中尾のみぞおちへと飛び跳ねる。 中尾はそれを察し、半歩身を引いた。 膝が虚しく空を舞った。 その隙を狙う中尾は、足を振り上げハイキックを繰り出す。 夏香はそのまま踏み込み、肘を打ち込む。 お互いの攻めが交差した。 胸部に異様な衝撃を感じつつ、中尾は足に手応えを覚えた。 中尾は数歩下がった程度だったが、夏香の方は後方へと吹き飛んでいた。 倒れたその身体は小刻みに震えていた。 「終りだな」 中尾が笑った。 仮面のような顔からは表情を読み取れない。 ただ気配と声は、それを伝えていた。 「超(スーパー)!」 中尾はそのまま、上方へと飛び上がる。 「月面!」 そして、近場の電柱を蹴ると、その勢いと重力に身を任せ渾身のキックを放つ。 「脚(キィィィィック)!」 夏香に向かって! 夏香はまったく動けずにいた。 死へと誘う圧倒的な破壊力の蹴りが夏香を襲う。 と。 次の瞬間、夏香が爆発した! 「な、に!?」 爆風に巻き込まれ、炎に包まれる中尾。 上体を崩し態勢を整えられぬまま、地面に激突する。 ―忍法・自爆― 「く!」 うめいて、立ち上がろうとするが自らの威力で自らダメージを受けてしまった。 身体が重い。 その前で爆風の中から夏香が姿を現した。 「全力!」 身体をほぼ半回転させ、拳を大きく振りかぶった姿勢で。 「!!」 危険を察知している中尾。 だが、身体が動かない。 いや、動けない。 一瞬後だった。 夏香が。 猛烈な勢いで突進しつつ、超威力の右パンチを繰り出した。 中尾に向かって! 「燃え尽きろ!」 右パンチは威力を削ぐことなく中尾の胸に吸い込まれる。 そして。 鉄板を金槌で殴るような異音が響き。 遥か後方へと中尾は吹き飛んでいった。 ■秘技■ ―ビッグバンパンチ― 中尾は地面に激突するとそのまま弾かれ、空中で4、5転し、再び大地に叩き付けれた。 変身はすでに解けており、美貌の口から血を吐き出した。 夏香はそれを見届けると、流れた鼻血を親指で拭った。 そして、口元をニヤっと歪める。 「だから言ったでしょ。 パワーとスピードが上な『だけ』じゃ、私には勝てないって」 |
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