Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■4■

―4―そして決戦へ


「あ〜あ、まったく」

 夏香はメガネを外すと、それをしげしげ眺めた。
 綺麗に横一線にヒビが入っている。

「メガネって高いんだぞ」

「失礼致しました」

 中尾が、フラフラと立ち上がってきた。
 夏香はメガネをかけると、スッ……と構える。

「まだやる?」

「いいえ、やめておきます」

 口元を真っ赤に染めつつも、中尾は笑みを浮かべた。

「ワタクシはどうも、貴方様を過小評価しすぎたようです」

「当たり前だっつーの」

「このたびは貴方様に言った罵詈雑言の数々、どうかお許しを」

 中尾は、そのまま片膝をつくと、頭を垂れた。

 と、夏香は中尾に近づくと、彼の頭をポコポコと叩く。

「まま、いってことよ! 私はそれほど気にしてないしね」

「恐縮です」

 そういって、中尾は立ち上がると、夏香の前にたった。

「では、夏香様。貴方様を真紀様の元へお連れ致しましょう」




「あれ……ここって」

 しばらく歩いていると、夏香にとって、よく見知った場所についた。

「夏香様。今回は、ワタクシの要らぬ戦いによって、激しくダメージを負いました」

「まあ、ダメージは受けたよね」

「これは明らかにワタクシの失態であり、ワタクシ自身、償わねばならない罰です」

「罰ってそんなに大げさな」

「貴方様は多分死にかかるでしょうが、その際は命がけでお助けします」

「……ふぅん……死にかかるねぇ……」

「ワタクシは真紀様に仕え、真紀様のために死ねる覚悟があります。
 だからこそ言いましょう」

 中尾は歩く速度を遅めると夏香に顔を向けた。

「この世界で一番美しくて強い方は真紀様だ。
 貴方様では勝てない。殺されると言ってもいい」

 微妙に……いや、まったくもってチグハグな……答えなのだが、中尾は恍惚とした表情を見せながら嬉しげに言った。
 夏香は思わず冷静に、しかしどこか頭を抱えたい心境になりながら、返事をする。

「……後半の内容はともかく、前半の前半はちと、ひっかかるのがあるぞ」

「着きました」

 と、中尾が足を止めた。

 夏香は渋面でその場をみた。

「おいおいおい……ここって」

 広い庭を有し、プールや各種体育施設を持っているその建物は静かにそこに対峙していた。
 夏香にとって毎日の生活の場であり、今日の昼頃まではそこで成績表なんかを貰ったりした。

 陰陽寺学園。

 そこについたのである。

 夏香が驚きの顔を見せている前で、さらに驚くべき自体が発生した。

 空間の一部から突然巨大な物体が出現した。

 正確には元々そこにいたのだが、カモフラージュされており、分からなかったのである。

 無骨とも言える鉄の四肢を持ち二本足で立つ『それ』は、高さにして約3〜4メートル弱。


 ―人型ロボット―


 それが一番的確な表現だ。

 そのロボットの胸部が大きく開かれる。

 そこには、一人の少女がやや狭そうに座っていた。

「ようこそ、夏香さん」

 少女は微笑んでいった。

 少女……それは、長月真紀に他ならなかった。


 


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