Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜
■5■
―4―25mmバルカン
| 夏香は構えると改めて目の前の兵器を観察した。 身長は約4メートル弱。夏香の身長のおよそ2.5倍。 どちらかといえば骨太武骨なデザインで、人間と比較すれば四肢はやや太め。 左手は人間同様『手』だが右手は巨大なバルカン砲が備えられている。 背中にはロケットのような噴射口と、小さなナイフのようなものが取り付けられている。 見た目だけで分かるのはせいぜいこのくらいか。 後は専門家でもないから、知りようが無い。 近くにいた中尾はすでに姿を消していた。 (気にせず戦えってことね) ここで夏香は中尾の存在を頭から消した。 全て意識を目の前に居る『鉄骨娘』に集中させる。 その『鉄骨娘』の右手……バルカン砲がこちらに向いた。 「!」 夏香はぎょっとした。 バルカン砲をこちらに向けられて初めて分かったことがある。 ―口径が異様にデカイ― サイズにして25mmの弾を弾き出すだろう。 25mmと聞くと小さいように感じられるだろう。 だが、直径2.5cmの弾丸が数十発連続して飛んでくるのだ。 アメリカ陸軍最新鋭戦車の機関銃は最大でも12.7mm。 その倍の口径がある。 これは地上の戦車を蜂の巣に出来る威力を備えている。 夏香が横に駆け出すと同時、『ヴゥン』という鈍い音と共に銃弾が放たれていた。 一発いっぱつの発射音などすでに識別出来ないほどの大量の弾丸が地面をえぐる。 駆け出した夏香を追うようにバルカン砲を動作を合わせる。 瞬間、夏香が元いた場所へバックステップ調で駆け出す。 そのまま、ジグザグに走りながらダルファーガに向かってくる。 「……む」 真紀は小さくうめいた。 照準こそ定まるもののロックシステムが追いつかない。 (中近距離で、兵器や人間離れした動作で俊敏に動かれると、ロックオン精度が落ちますか!) ダルファーガが左手で背中のナイフに手をかけた。 「ハルベルトモード!」 真紀の掛け声に呼応して、ナイフの塚は垂直に伸び、先端は三叉に分かれた。 (ナイフと思ったものは、槍だったわけね!) 夏香の方は冷静に事態を把握していた。 夏香の目の前で、巨大な『鉄骨娘』は槍……ハルベルトを大きく振りかぶっていた。 ハルベルトが向かって地面に垂直に振り下ろされた。 その動作を予測していたのか、即座に夏香はかわしていた。 (瞬発的なパワーとスピードは中尾以上だけど、動作は鈍い!) かわした速度を殺すことなく、身を翻しながら夏香は踏み込み、拳を放つ。 ―スタンナックル― 夏香の技代名詞とも言える『力任せ』の技である。 しかし、その威力は小さな少女が放つものであると侮ってはいけない。 人間はであれは一撃で昏睡させるに至る代物なのである。 例えそれが戦車などの兵器であったとしても、かなりの衝撃を与えられるはずである。 だが拳が当たる刹那…… 「ステップ!」 真紀が叫ぶ。 ダルファーガの脛と膝から黄緑色の爆炎を発し、後方に飛び退いた。 「うぉ!?」 さすがの夏香も思わず目を剥いた。 4メートル近い巨大な物体に『ひらり』とよけられるとは思わなかったのである。 だが、それだけではとどまらない。 「ダッシュ!」 真紀が叫ぶ。 と、背中のロケットが火を噴き、高速で『飛んで』くるのである。 ―ダッシュ― 真紀の『ダッシュ』の声に反応して、ダルファーガが背中のバーニアから推進剤を使って飛ぶ動作を『ダッシュ』と命名している。 推進剤がある限り飛んでいられるが、戦闘機ほどのスピードは期待できない。 そのダッシュで低空飛行しながら右手のバルカン砲を乱射する。 すでにロックオンしてから当てるつもりは無く、『下手な鉄砲、数撃ちゃあたる』とばかりに弾をばら撒いた。 「うわっち!」 横に飛び退く夏香。 と、いつの間にか追い込まれていたのだろう、陰陽寺学園の一階校舎の壁が彼女の背中に広がっていた。 振り向く彼女の視界に、大きく横に振りかぶったダルファーガのハルベルトが見えた。 |
| ■5■―5―に進む |
| ■5■―3―に戻る |
| 図書館に戻る |