Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜
■5■
―6―かく乱
| 「ハルベルト、収容」 ダルファーガの左手のハルベルトを縮めると背中に納めた。 真紀は目を細めた。 視線は画面に映る大量の麻生夏香……数にして7体……に注がれていた。 ―どうするか― 『勝つだけ』ならば、優位態勢を保ったままバルカン砲で全ての夏香を打ち貫けば良い。 それで勝てるとも思えないが、さりとてこちらが不利な状況に陥る可能性は低い。 だがしかし。 「それではつまらないですね」 真紀は呟く。 どこか嬉しげに、どこか楽しげに。 つまり……答えはとうに決まっていた。 「ステップ!」 叫ぶ。 真紀はダルファーガの気化薬莢を爆発させた。 爆発力で進む気化薬莢『ステップ』。 足の角度次第では吹き飛ぶことなく足元を破壊することが可能である。 黄緑色の刃は貫通式とばかりに陰陽寺学園の屋上を貫き、ダルファーガの巨体の進入を許すほどの大穴を作った。 爆煙と砂埃を撒き散らし、落ち行く破片と共に机や椅子を捻り潰しながら。 ダルファーガは4階に降り立った。 「この箱は宝の山か……それともパンドラの箱ですかね」 左手を大きく、薙ぎ払う。 視界を覆い隠していた砂埃が勢いに乗って、吹き消える。 そして。 そこには。 そこには本当に。 「……」 『麻生夏香が7人いた』。 「はっはっは」 思わず真紀は笑った。 瞬間。 ダルファーガは右足を大きく踏み出し床にめり込ませる。 衝撃で舞い上がる学校の備品と共に。 バルカン砲を放った。 麻生夏香『たち』に向かって! だが。 狂気の牙たるバルカン砲の弾を受け入れ粉々になったのは、机や椅子などといった陰陽寺学園の物質だけである。 7人の麻生夏香たちに向かった弾丸は全て当たることなく、すり抜けた。 麻生夏香たちはというとダルファーガの行動に驚く訳でもなく、全員が全員バラバラに動き回っていた。 挑発する者。飛び回る者。 各々好き勝手の攻撃するわけでもなく動作を繰り返す。 例え攻撃して来た所でその打撃はこちらと同様にダルファーガをすり抜けた。 (データに無い物ですね……いや……もっと前) データを取るもっと前、一度だけ見たことがある。 確か夏香と真紀が暦の共同作戦でのことだ。 某国陸軍基地に潜入した際、夏香は七人の分身を作り出し相手をかく乱させつつ、任務を遂行したことがあった。 原理は分からないけれど、『本体とはまったく違う行動をする』幽霊を作り出すような技。 確か、名前を。 「忍法八つ身分身」 声はダルファーガの後ろから響いた。 真紀が反応するよりも早く。 『誰かが』ダルファーガの後頭部を蹴り飛ばした! よろめくダルファーガ。 だが、レーダーには反応が無い! 「分身を作り出してかく乱させつつ、本体は姿を消す技でしたね!」 瞬時に態勢を立て直すと身体を反転させ、何もいない空間に向かってバルカン砲を乱れ撃つ。 校舎の壁を破壊しただけで何も反応は無い。 いや、反応があった。 ダルファーガの右手後方から何かが飛んで来る。 「ステップ!」 気化薬莢を爆発させ、その推進力で身体をターンさせる。 勢いを乗せ。 裏拳を放つ。 そして、砕いた! 学校の机を。 「む」 と。 『誰かが』真上から降り立ち。 ダルファーガの頭部を踏みつけた! 一瞬、モニターの画像が乱れる 「踏み台にされましたか!」 顔を上げる。 そこには飛び蹴りで向かってくる夏香の姿があった。 間髪入れずにパンチを放つダルファーガ。 拳は夏香をすり抜けた。 「分身の方!」 再びダルファーガに衝撃が走った。 今度は『誰かが』真横から脚間接部に向かって攻撃を加えたのである。 モニターに映し出される。 『左足関節部、損傷率10% 行動に問題無し』の文字。 「ペースに呑まれましたか!」 真紀は舌打ちした。 そして叫ぶ。 「ステップ!!」 気化薬莢は4階の床を吹き飛ばした。 |
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