Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■5■

―7―陰陽寺学園3階の攻防


 陰陽寺学園3階。
 天井が吹き飛び、巨大な鉄塊が無数のひび割れを床に発生させながら激突した。
 鉄屑、木、砂……あらゆる物を噴煙として巻き上げならが、鉄塊はスク……と立ち上がる。
 鉄塊……ダルファーガである。

 ダルファーガの視線が即座に天井に向けられる。
 夏香たちはまだ降って来る様子はない。
 それを確認すると、そのまま粉塵の中に身を隠した。

「ACE−PAINT。
 シールド・カラーからオプティカル・カモフラージュ・カラーへ」

 真紀の声に従い、ダルファーガはそのまま『姿を消した』。

―ACE−PAINT―

 ダルファーガの装甲は鉄である。
 ただの鉄ではなく宇宙空間で精製された高純度性であるため、戦車や装甲車よりも遥かに高い硬度を誇る。
 無論……それでも『鉄』であり、ロケット弾を攻撃を防ぐほどではない。
 そのダルファーガの装甲をミサイルなどでもガード可能に高めているのが、『ACE−PAINT(エース・ペイント)』と呼ばれる特殊塗装である。

 The attribute of armoring is changed by changing an electronic flow―paint.
 通称ACE−PAINT。

 特殊な波長で電流を流すことにより、装甲表面に塗られたエース・ペイントがさまざまな効果を及ぼすのでる。

 今までの状態は、『シールド・ペイント』と呼ばれ、ダルファーガの装甲硬度を高める効果を持っている。
 これにより、自身の硬さを高めるだけでなく、激しい動作も可能としている。
 色は、ダーク・レッドを基調としたグレー。

 そして、今回は『オプティカル・カモフラージュ・カラー』……つまり光学迷彩によって『限りなく姿を消した状態』にするカラーである。
 ただし、完全に姿を消したり透明になるわけでなくあくまで迷彩である。
 そのため、よく目を凝らせば微妙なる違和感によってその位置が分かる。
 陰陽寺学園に夏香が着いた際、ダルファーガが突然姿を表したのはこのためである。

 粉塵は静かに治まった。
 部屋の隅で『限りなく姿を消した状態』で静かに部屋を見守るダルファーガ。
 夏香たちはまだ来ない。

「ダルファーガ……貴方は『目が良い』から逆に騙されてしまうんです。
 夏香さんは貴方さえも惑わすほどの人です」

 やがて、夏香たちも相手が待っていることを察したのだろう。
 一人、降りてきた。
 だがその動きは、4階で戦った分身と同様ランダムだ。

「だから、感じ取るんです」

 ……二人目も同様。

「……僅かな違い……」

 ……三人目も同様。

「……僅かな視線の違い……」

 ……四人目も同様。

「あの人の心を……感じ取るんです」

 ……五人目の瞳が。

 一瞬だけ、ダルファーガに釘付けとなった。

「ステップ!!」

 瞬間。

 気化薬莢が爆発した!

 脚をきしませ、光学迷彩で姿を隠したまま、巨体が夏香に迫る。

「おおお!?」

 夏香が驚愕の声をあげる。

 ダルファーガが『右手』を大きく振り上げる。

 腕が振り下ろされるよりも速く。

「……っ!」

 夏香がとっさに横へ飛ぶ!

 が、そのとき。

 ダルファーガの左手首が夏香へとすでに向いていた。

「ワイヤー!!」

 刹那。

 左手首から発した光学ワイヤーが、夏香を貫いた!

 ワイヤーは地面に突き刺さり、夏香も床に倒れ付した。

 いや……貫いたのは、夏香のジャケットだけであった。

 あの瞬間に、夏香は身をはねさせ、直撃を免れたのだ。

「うわっち……やばいかもね、こりゃ」

 倒れたまま身をひるがえすと、夏香は『見えないワイヤー』からジャケットを引きちぎろうと引張りだす。

 と……。

「ACE−PAINT。
 オプティカル・カモフラージュ・カラーからシールド・カラーへ」

 夏香の目の前で、透明に近いワイヤーは黒く太いその姿を表し。

 ダルファーガの巨体が彼女の前に現れた。

 そして。

「ドワッジ!?」

 彼女の眼前にはダルファーガの左足裏が広がっていた。

「ステップ」

 気化薬莢が爆発した。


 


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