Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■5■

―9―連鎖する自壊


 発射口に差し込まれた一本のクナイは打ち出す寸前の25mmの弾丸と激突し、暴発を引き起こした。
 外部であれば、問題は無かっただろう。
 だが、戦車さえ瞬時に蜂の巣にする破壊力と火力を秘めた弾が、バルカン砲の内部で爆発したのだ。
 熱火と破砕がバルカン砲体内を暴れ回り自らの鉄体を引き裂き、放出されるまで待機していた破壊子供たる銃弾は、目標物を貫くことなく灼熱をもって破裂した。

 内蔵された弾丸全てが誘爆したのだ。

 発生した酷熱の暴力は2階教室に鉄片の雨を降らせ、ダルファーガを殴り倒し衝撃の力を持って押しつぶし、半身を床へとめり込ませた。
 コクピット内部にはショック吸収処置が取られているもののこの衝動は止められなかったのだろう。
 固定ベルトが激しい往復運動によって真紀の身体に食い込んだ。
 呻き声を上げなかったものの、歯を食いしばり、僅かに片目を閉じて急激な圧力変化に耐えた。
 思わず口に笑みが漏れる。

「……やる!」

 バルカン砲はもう使い物にならないだろう。
 幸いなのは、右腕そのものはまだ動作可能であることだ。

 夏香は……反応は3階にある。
 この事態を予想していたのか、クナイを投げた直所、即座に穴に手をかけ爆発を避けるために3階に戻ったのだ。

 ……と、背景を映し出していたモニターに『緊急エラー』の文字が赤々と浮かび上がった。
 同時に、ダルファーガの装甲表面のダークレッドカラーが、薄曇った灰色へと変化する。

「……まさか、何重に張り巡らした重要な太い糸が」

 真紀は呟いた。
 画面には一行の文字が追加された。

『ACE−PAINTへの相互リンク。解除』

「一番最初に途切れるとは……ふむ」

 再び、ダルファーガ内部に強烈な振動が走った。

 夏香が3階から、2階の床に埋まったダルファーガに向かって飛び蹴りを食らわしたのである。

 真紀の目の前にある内装甲の一部が、夏香の靴の形に盛り上がった。
 いや……外部から見れば、ダルファーガの装甲が靴の形に陥没したのだ。

 すでにダルファーガの装甲は狼から守れるほど強い堅牢なレンガの家などではなく、ただのワラで出来た家でしかなかった。

 打撃が加えられるほど、足の形に沈む装甲。
 歪む画面のモニター、攻撃の度に増える赤いエラーの文字。

「素晴らしい勢いで緊迫した雰囲気ですな!」

 そして、画面には一行の文字が加わった。

『問題が解決しない時は、システムを再起動させてください』
「めっちゃ無理」

 瞬間、ダルファーガの巨体が2階床を突き破った。

 連続する衝撃でついに床をも貫いたのである。

「ダッシュ!」

 真紀は叫んだ。

 ダルファーガは背中のバーニアの推進力に火を灯す。

 1階の床に激突寸前に。

 推力をもって横に飛び立った!

「うお、良いスピード!」

 蹴りを放ちダルファーガの胸に着地していた夏香が声を上げる。

 即座に2階へと飛び移った。

 ダルファーガはそのまま1階の教室窓を突き破り、校舎の外へと飛び出した。


 


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