Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■5■

―11―蛇


「あれは……まさか……」

 夏香は倒れながら、その光景を眺めていた。

「アイツの魔術……?」

 ダルファーガの足元の魔方陣よりそれは出現した。

 無数の……蛇!

 あるものは外部からダルファーガの鉄体を、あるものは内部から真紀の身体を縛り付けた。
 腕を胴体を首を、あらゆる箇所に巻き付き締める。
 真紀の腕が千切れるのではないかと思えるほど深くその身を肉体に摺り寄せている。
 何匹かは余裕を見せんとばかりに真紀の目の前で舌を伸ばしていた。

 にも、関わらず……

「……」

 真紀は苦しさを顔に出していなかった。
 むしろ、酷く醒めた冷たい表情をしていた。

「つまらない……ですね」

 言うや否や……全身に蛇がまきついているにも関わらずダルファーガを動かした。
 蛇たちが真紀をより一層深く巻きつくが、その動作は止まらない。

「……邪魔をするな」

 静かに深く怒気を含んだ声を発すると共に、ダルファーガの左腕を急速回転させる。
 ブチブチと彼女の腕、足から血が噴出す。

 そして……。

「私の邪魔を!」

 真紀の怒号に蛇たちが吹き飛んだ!

 ダルファーガの衝撃波を含んだ拳を叩きつける!

「ファイヤー・ナックル・ビート!」

 ダルファーガ自身の真下に!


 瞬間。


 校庭に砂の波が海のように走り抜け、直後、地面に広大なクレーターを発生させダルファーガを縛っていた蛇と自身の足を消滅させながら。

 ダルファーガは遥か上空に吹き飛んだ!

 自らの破壊力で!

「わ、わ!」

 それを校舎瓦礫前で見ていた夏香の元へと、破壊の振動は向かってきた。

 見ている前で、次々に衝撃波によって沈む地面。

 その垂直コースにいる自分。

 腕と足の骨が砕けている以上、避けられない!

「約束を果たしにきました」
「え?」

 と、誰かが夏香を抱き寄せた。
 お姫様ポーズで抱きかかえられて夏香は瞳を向けた。
 そこには人と生物を混ぜたような皮膚を持つ特撮ヒーローが立っていた。

「中尾邦彦!」
「御名答です。正解者には『セイリング・ジャンプ』をプレゼント」

 言うや否や、上空へと垂直ジャンプする中尾。
 地面を急速に離れていく。
 かつて校庭と呼ばれた地面は完全に大きな穴を形成していた。

 夏香は顔を上げる。
 空中の遥か対岸に吹き飛びそして、自由落下を開始したダルファーガの姿があった。

(あの魔術……)

 心の中で呟く。
 彼女の知る限り、魔術が使える人間は数えるほどしかいない。
 しかしその中で、ダルファーガの動きを止めるほどの魔術を使えそうなのは……。

 彼女の頭の中に一瞬だけミラーグラスを被った少年の顔が思い浮かんだ。

「まさか……ね」

 中尾の腕の中にすっぽり入りながら、夏香は小さく呟いた。


 


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