Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜
■6■
―1―試す
| 「珍しいところで会いますね。アルシャンク」 燕尾服の美男子……ヘルメスが笑顔を向ける。 アルシャンクと呼ばれたミラーグラスの少年は、真っ直ぐ背を伸ばし両手をポケットに入れたまま……『別に』と呟いた。 彼らは一緒に来たわけではなかった。 ヘルメスが真紀の要請に応じて来たときには、爆心の中心地と思える場所にアルシャンクが立っていたのである。 「お前はお前の目的でここに来たように、俺もまた俺の目的を持ってここに来た。 だから俺とお前はここであった。それだけだ」 「暦の目的ですか?」 「いいや、『俺の目的』だ」 アルシャンクの顔が地面に向けられる。 あの飛ぶ腕……『ファイヤー・ナックル・ビート』だったか……その攻撃によって土も破片も渾然一体となるまで焼き尽くされ、やがて冷えたのだろう。 校庭は『パンチ』を受けた場所を中心にガラス状と化していた。 「もしかして、その目的とは『葉月』さんを助けるためですか?」 ヘルメスは笑顔のまま問いかける。 アルシャンクはただ微動だにせず、地面を見続けいていた。 「なぜそう思う?」 「最後の瞬間、魔方陣で真紀さんのロボットの動きを封じたのは貴方でしょう?」 ヘルメスは笑顔のままだ。 「その結果、予想外にもあの一瞬の彼女の機力は貴方の魔力さえ超えた。 そして、貴方の使い魔と魔力は吹き飛んだ」 アルシャンクはガラスの地面に足を乗せた。 パキリ……と小さくヒビが入る音がした。 「試してみたくなっただけだ」 「試す?」 笑顔のまま、顔に疑問符を浮かべた。 「何故、9月が『殺神機人』と名乗るのか? あの戦いを見ていたらそれを試したくなった」 「あれ? 『殺神機人』って『自称』だったんですか? 異名でなくて」 「自称がそのまま異名となった」 ヘルメスは真紀よりも後に、暦に入った。 そのため、各最高幹部が持つコードネームとも言える『異名』の由来は知らない。 アルシャンクが暦内部で憎悪と畏怖を持って“妖術師”と呼ばている。 そして、事実……アルシャンクは『妖術師』だった。 対して、『殺神機人』は真紀の自称である。 「あれはあの瞬間だけは、確かに『神さえ殺せる機械人』だな 9月の怒りを伴った気迫が込められた機械の攻撃だけで、使い魔を消滅させただけでなく……」 アルシャンクはポケットから右手を出した。 少年のように白くスラリとした手は黒い革手袋に覆われ、その手袋はズタズタに引き裂かれていた。 「そのまま、術者にまで破壊力を及ばせた」 ここに来て初めてアルシャンクは顔をヘルメスに向けた。 「人智は神威を超える。奴のは面白い超え方だがな」 対して、ヘルメスは溜息とも苦笑とも分からない息を吐き出すと肩をすくめた。 「夢見るならどうぞ……気が遠くなるから」 「夢ではない。確固たる現実さ」 「どうせ行きつく先は『世界の果て』さ……」 「そうさ」 アルシャンクは笑みを浮かべた。 ぞっ……とするほどの美しさと絶望を感じさせる笑顔だ。 「俺がいるのは……世界の果てさ」 |
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