落し物は交番に


「わかったな、ガルベット。」
プロトは首を、光速で横に振った。ため息の音が聞こえる。
鋼鉄と回路に包まれた空飛ぶ機械の中で、プロトは、
スカイダイビングのレクチャーを受けていた。

現在、高度二千メートル。


●第二話 犬も歩けば鉄骨が落ちて来る


「ようし・・・もう一回説明してやろう。その前に、おさらいだ。
 お前はこれからスカイダイブして、真下の海に下りる。
 それからもぐって、落し物を拾ってくる。
 それはもうわかったな?」
「はあ。」
「まず、パラシュートは・・」
・・・・・・九月嬢のお話しなら半分は頭に入る。
この上官、一応、上官の、五月五日の説明は、七十%ほど。
それでも、わからない。
「簡単に言えば、危ない!っと思ったら、紐を引くんだ。」
今度のは、一発で分かった。

現在、高度二千五百メートル。

「まず、第一に、双方の利益という物を考えるべきです。」
「・・・利益、ね。」
「イエス!利益!」
今、これを見ている警備員の顔色は蒼白であろうと、
彼は思った。
目の前にいる、米国国防長官の声の影に、複数の人間の声が
聞こえる。
「・・・我が星条旗と・・・ゲリラが・・」
「あの・・・・世界を包むくもの巣・・男・・」
「イエローモンキー・・・白人にも・・・・」
「B諸侯連合国の軍備は・・・まかなって・・」
まあ、好きに言うがいいさ。
「ミスタ、私たちの行動は、国民と、国の利益のためです。
 そのためならば、我々は名誉をも捨てられる!だからこそ・・」
「勘違いしてもらっちゃ困りますなあ。フェルディナンドさん。
 あたくしたちゃあ、生き延びるために、今までしたくも無い
 ゲリラ稼業を続けてきたんです。」
歯並びの悪い口元に、葉巻を持って行き、火をつける。
吐いた煙が、ひびの入ったサングラスを曇らせる。
「それを今さら・・・!
 第一、あたくしどもは国事犯でっせ、どうにもこうにも・・」
サングラスをふいて、かけなおす。
「合点がいきませんなあ!あたくしども『闇蜘蛛』を使うわけが。
 あんたら、国でがしょ?」
「ええ、そうです。」
米国国防長官フェルディナンド・パッカードは、
近頃、この様な仕事をよく大統領から言いつかる。
フェル(愛称)は、この通称、闇蜘蛛と言う男が、どうにも
好きになれない。
人相は悪いし、おまけに、東洋人だ。
それに、この男のなまり爆発の英語も、大嫌いだ。
「我々では動けないのですよ。
 国という鎖に縛られている我々ではね、ですから、
 あなた方ゲリラ結社、『闇蜘蛛』が必要なのです。」
闇蜘蛛・・・・別名、コンクリートゲリラ。
ベトナム戦争の最中結成されたとされるこの秘密結社は、
アジアの都市部を中心にゲリラ的な武力活動を行っている連中だ。
連邦捜査局も必死で追っていたが、こうも簡単に、
しかも、酒場でコンタクトできるとは、驚いた。
「ガイアなら動けるんちゃいまっか?まあどっちにしろ・・・・」
とてつもなく不気味な笑顔である。
「あたしらは、おゼゼが大好きですんでなあ。
 断れませんわ・・・」

現在、高度四千メートル。

「ちょっとまてえええええ!!!!」
プロトは、ダイビングハッチに立たされて、叫んだ。
高い。
というより、海が見えない。夜のせいもあるだろうが、
よけい恐怖感を掻き立てる。
「なんだこりゃ!なんだこりゃ!ちょっとまてえ!いつかあ!」
「待つかよ。」
ぽちっとな。

「ぎょええええええええええ!!!!!!!!!!!」

現在、高度四千メートルから、落下中。

あああああああああ、死ぬ、死ぬ、死んじまう。
ひ、ひ、ひ、ひまわりを一人連れてくりゃよかった。
なんで、なんでだ、ここで死ぬのか?

高度、三千五百メートル、尚も落下中。

ど、ど、どうしてなんだ?
生き死にってのはこんな軽い物なのか?
軽い物なんだな?

高度、二千九百メートル、速度が上がる。

生き死には軽いのか、そうか、そうだよな、この真下にある落し物で、
数万死ぬんだ。
死ぬんだなあ。ピンとこねえけど。

高度、二千メートル、そろそろパラシュート開かんとやばい。

だったらなんで必死こいてんだろ、オレは何で暦にいるんだろう。
なんであくせくやらなくちゃならないんだろう。

高度、千メートル、速度がついてて速い、危険危険!

どうせ死ぬなら、死ぬまでゆっくりやってたほうが特だと思うがなあ・・
あ、じゃあオレはいい人生送ってんだな。

高度、五百メートル。

おお、パラシュ



五百メートルでパラシュートを開くには遅すぎる。
数秒後には、海面だからだ。
けれども、忘れてはならない。
プロトは、サイボーグである。人工の頑丈な骨格がある。
この程度では死なない。
「・・・・・やっぱ、やる気無くてもいいんだな、オレは。」
けれども、忘れてはならない。
プロトは、サイボーグである。人工の頑丈な骨格がある。
この程度では死なない。が、
重くて、海には沈む。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
自分の吐息が、白いあぶくとなって見えた。


 


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