落し物は交番に


深い青だ。いや、青と言うより黒だが。
夜の海というのもまた情緒があるかもしれない。・・・海中だが。
それにしても、やっぱり自分は丈夫だ。
「・・・・深度九十三ね。」
手元の深度計を見つつ、プロトは呟いた。
これでも、つぶれず、まだ沈み続けるのか。
「・・・けど、やっぱ一人は寂しいな。」
思わず、一人愚痴る。
自分の真横を、大きな海月がすり抜けた。まだ沈んでいく。
「・・・・・・さびしーなー。」
まだ言ってる。

●第三話  二つの深海

「闇蜘蛛!?あの東南アジアで名を馳せたコンクリゲリラか?」
「ええ、そうです。どうやらフェルが突っ走ったようで、
 彼に某国の『ミッシングウェポン』の回収を依頼したそうなのです。
 なんとか食い止めたいところなのですが・・」
「もう間に合うはずが無いだろう!」
世界に輝く一大国家の主席は、おもわず副官に声を荒げた。
「コードネーム『ミッシングウェポン』通称MW。
 名義上は某国が処分する物となっていましたが、
 その実態はご存知の通り・・・・・・・・・・・・・・・」
「我が国への輸送だ!」
この国は、いまとある小さな先進国を危険視していた。
その発展振りと、なによりそこの首脳部のとてつもなく強大な力を、
この国は恐れたのだ。そのため、極秘裏に軍備拡張を図り、
いつかくるやもしれぬその小さな先進国との全面戦争に備えようとしていた。
とある上院議員の一言が原因のこの行為は、
現在ある、『アメリカ』という国の絶対的権威すらも切りくずす恐れがある、ひじょうに危険なギャンブルであった。
「二つの非人道的兵器を保有する意図がある自体、騒ぎを招くのだ!
 この上、さらに、『闇蜘蛛』などというわけのわからん連中にそれを奪われ!
 あまつさえ脅迫材料にでもされたらどうなると言うのだ!
 我が国の崩壊だ!」
ラスベガス出身のこの大統領は、いまどき珍しい男だった。
ダンディな男らしさをかもしだし、ときに豪快に、ときに綿密に政治を行った。
まわりの評判も高かった。
その自分が、その自分がとった政策のために、今、国が危ういのだ。
「・・・・・ブラックボックスを。」
「は?」
また、この大統領がなぜそんな上院議員のたわごとを聞き、
わざわざ裏で兵器を調達していたのかと言うと、
彼は、その国の主席の才能をひがんでいたのである。
あのすさまじい国の発展振りはどうか!?
あの強運はどうか!?
あの不幸をももろともせず逆に利用する政治手腕はどうか!?
気に入らない、気に入らないのだ。
「ブラックボックスをもってこいと言ったのだ!かくなるうえは・・」
「ど、どうするので?」
狼狽する副大統領の存在は、今の大統領にとって石ころも同然だった。
「弾道ミサイルであそこを焼き払う!なあに、世間はファットマンの誤爆と思うさ。」
とてもとても無茶な事だ。
しかし、それをできるのが国と言う物なのだ。
まるで深海の事のように、誰にも知られず行動できるのだ。

「ん・・」
海底に下りた。ホバーをつけて、推進力して進む。
プロトの目には簡単なセンサーが仕込んである、こういうところでも、
ある程度は見える。
「あった!」
翼のへし折れた鋼のアホウドリが、海中に横たわっていた。
ところが、その羽の根元に影があるのを、
プロトは、見逃さなかった。


 


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