落し物は交番に


どうにもこうにも、運が悪い。
「はははは・・・・・・」
海面に出てきた瞬間に散弾銃向けられるって言うのは、人類史上でもそうはない事態なんじゃないだろうか。
プロトは、そう思うしかなかった。


●第五話  惰眠を貪る


「さてえ・・・あんはんどこから来た人間や?」
リーダー格であろう、歯並びの悪くサングラスをした男が言った。
「まあ、だいたいの予想はつくんですがな、どうにも附に落ちんのは・・
 あれや。」
彼が親指を向けた先には、さっきプロトがぶっ壊して、
中に缶詰とナガサキを入れてトランク代わりにしていた、小型ポッドがあった。
「あれは『ベージャー』いいましてな、米国製の最新型無人機、
 米国のだけあってとんでもなく丈夫なんですわ。
 それをあんさんは、海中で壊した!しかも、火器を使わずに!」
プロトは、そしらぬ顔をしている。
「あんさん何モンや?」
黙秘権の使い方を、プロトはとてもよく知っている。
とにかくしゃべらない事。
「・・・・・・だんまりでっか。まあ、いいでしょ。」
闇蜘蛛はとりあえず引き下がったようだったが、その部下たちは食いついた。
血の気をたぎらせた目をプロトに向ける。
「化けの皮をはがないんですか?」
「多分、無駄や。どこの組織の奴かはわからんが・・・とりあえず、ぶちこんどけ。」
操舵室へ足を向けつつ、闇蜘蛛は付け加えた。
「殺したらあかんで!」

真っ暗。
船蔵の中と言うのはこうも暗いものだと、プロトははじめて知った。
「・・・・さて、と。」
とりあえず、いい加減に鬱陶しいヘルメットを脱いで、
傍らにおいておく。
入り口には、人相の悪い見張りが二人いる。
どうにもこうにも、厄日である。
「・・・いや、そうでもないか。」
と、プロトは考え直した。
「これでしばらく昼寝ができる。」

闇蜘蛛も確かにゴロツキ連中を束ね、ゲリラなどをやっている男であったが、馬鹿ではない。
この仕事に裏があること事態分かっていた。
だが、ここはひたすら下手に出て、卑屈にとおす!
阿呆な政治家は案外それでだまされるもんだ。
「ども、闇蜘蛛です。」

「今はマズイ!あとにしろ!」
「そうは言われましてもなぁ・・・・わいらも商売ですさかい、
 もうそろそろ報酬のお話しを・・」
「くどい!閣下は多忙なのだ!」
とりあえず、フェルはそこで受話器を強引に置いた。
「・・・閣下、よろしいのですか?」
その後ろには、米国大統領。
あれほどフェルを批難し、ブラックボックスのスイッチを押すのも辞さない姿勢を見せていた大統領がいた。
「かまわぬ、チンピラ連中の目論みも分かっている。
 脅迫材料に使おうとは愚かな!
 ・・・・・ここは、君と連中の陰謀として済ませてもらうよ。
 副大統領もうまく誤魔化した。」
「さすがです。」
「それほどでもないさ。君には濡れ衣を被ってもらいすまない。」
「いえ、後々を考えれば。」
「そうかね!」
と、得意満面の笑みで言う米国の心臓は、内心、勝利感でいっぱいだった。

これで、これで・・・・あの怪物を出し抜いた!


「どや?」
「静かなモンです。動きすらない。」
「・・・・なんかうるさくないか?」
「え?」
確かに、船蔵からなにやら轟音がする。
慌てふためいた見張りは、船蔵の門を開けた、
そこでは、
無精髭をはした栗毛の白人が一人、眠りこけていた。
床にみっともなくよだれをたらして、大いびきをかいていた。
「あ・・・あ・・あ・・」
心からの叫びが蜘蛛から出た。
「あほかああっっ!!」


 


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