落し物は交番に
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| 暗闇の中に、白い建造物があった。 周囲は人垣で囲まれ、怒声や罵声、カメラのフラッシュが辺りを包み、 極度の興奮状態を作り出していた。 これが、あの世界に輝く文明大国のトップの住まいだと、もはや誰も信じなかった。 アメリカのとある報道局はこう断言した。 「もはやホワイトハウスはわが国に巣食う癌である!我々はそれを早く手術しなければなりません!」 ●第九話 闇の奥 闇蜘蛛は、不気味にほくそえみながら、プロトの首筋から刃先を抜いた。 たとえ防弾チョッキを着ていても、これには耐えられない。 なんせヤドクガエルから取った毒なのだ。 ヤドクガエルとは、アマゾンの奥地に住むサイケな色をした蛙だ。 体皮からは、象をも殺すとんでもなく強力な毒が分泌されており、原住民はこの毒を矢に塗って使う。 原住民たちはこの蛙を『闇の奥に住んでいる』と言う。 人知れずこの殺戮者は、間違って自らを口に放り込んだ犠牲者を殺している。 まさに、闇の奥での戦いである。 「・・・・・はっは。あっけないもんやなあ。」 ぴくりとも動かない謎の侵入者から背を向けて、闇蜘蛛はスイッチを押した。 「防火扉開け!総員持ち場に戻るんや!」 かくいう闇蜘蛛も、その名の通り、闇の奥で暮らしていた人物である。 近年アジアの闇に隠れ、都市部に疾風の如く出現し、命を奪い去った。 生き延びるために人を殺した。生き延びるために、闇の奥で過ごした。 こうなったのもすべて、あの国のせいなのだ! アジアの片隅に、 コルギアート公国という国がかつてあった。 伝統のかけらもない小さな独立国だったが、ある日、あの国と条約を締結してから全ては変わった。 貿易港や鉱山は全てあの国の国旗で埋め尽くされた。 経済も始めは伸びたがまるで千尋の谷に突き落とされたように落ち込んでいった。 そして、いつのまにやら、コルギアートという国は地球上から消えうせていた。 併合という名の吸収によって・・・ 闇蜘蛛・・本名、ドーゼン・ウルガスは、その国の国防隊長だった。 しかし、併合とともに国防隊は消え、ドーゼンは職を失い、 できることといえば兵士崩れをかき集めての都市部略奪。 すなわち都市ゲリラ。 今まで闇の奥でつらい戦いをしてきたが、これで、すべて、報われた! アメリカの力で!MWの力で!光の中に還るのだ! 「ただいま入りました緊急ニュースです。 ゲリラ組織との癒着疑惑がかけられている米国大統領F氏が、 自家用ヘリで逃亡を図りましたが、阻止されて、身柄を拘束されました。 これは、F氏が捕縛されたときの映像です。」 「おとなしくしろっ!」 「手錠を!」 「恥さらしがっ!」 「シット!」 「はなせっ!やめろっ!畜生!畜生!見ていろゴライアス!私は負けん! インターポールも貴様も、いつか手中に・・ぶわっ!やめろおっ!」 「うるせえっ!フールドッグ!」 「身柄を拘束!自家用ヘリにフェルディナンド長官を確認! ・・・・・はいっ!了解。長官も拘束しろ!」 「しんじまえっ!」 「主よ・・・彼らの罪をお許しくださ その後、F氏はニュージャージーの刑務所にしょっぴかれ、 そのまま法廷にかけられた。 しかし、陪審員に聞くまでもなかった。 彼の運命は、闇の奥へと、一直線に続いていたのだ。 |
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