落し物は交番に
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| 「ソナー鳴らせ!最大で!」 という、闇蜘蛛の絶叫とともに、水中に巨大な音波の輪が広がる。 はねかえる。 はねかえった輪は、カーナビのような小さなモニターに海中の影を映し出す。 「ト・・・トラファルガーだ!ハンターキラーサブマリン!」 闇蜘蛛の顔から、いっぺんにたくさんの冷や汗が流れ落ちた。 ●第十一話 巨影の鯨 トラファルガー級潜水艦。1963年に一番艦『ドレッドノート』が就役。 イギリス海軍謹製の原子力潜水艦である。 やや旧式だが、駆逐潜水艦としての力は存分にある。 魚雷発射管を五門搭載。ポンプージェット式の推進機関を有する。 「最近あちこち改良されたんで十分に使えるという報告が出たそうでして、 中古品を使いまわしたそうです。」 「・・・ワシはそんなことは聞いておらんよ・・」 日本の首相、K氏の前にいるのは、公安委員会の委員長だ。 「何故にイギリス軍が動き出すのだ!あれはもう手出しできんはずだろう!」 「事件の早期解決と、闇蜘蛛の危険性を十分留意しての必要な措置だそうです。 無論、非公式ではありますが・・・」 これは面倒くさい事になった・・・・! アメリカという強大国の歯止めが崩れて、何らかの異変が起こるであろうと、K氏も予測していた。 だが・・・潜水艦とは!しかもあからさまな軍事行動とは! 偏頭痛がしそうな話である。おまけに、きっとそれでまた金をせびられるんだろう。今までどおりに。 とにかく脳を落ち着けさせるため、K氏は茶を手に取った。 「しかもです。」 この期に及んでまだ報告せざるを得ないものがあるのか!と、K氏は思わずにいられなかった。 「欧州各国もほぼ同時に動き出しています。」 思わず、K氏は口元に持っていった湯飲みを取り落とした。 「な・・なにいっ!?」 「独、露、蘭、仏、ノルウェー、伊、印もあるという情報があります。 西ユーラシアの各国海軍が全力で『落し物』のねこばばにかかっています。 無論、全てが非公式!国連への説明釈明も一切なし!」 「な・・・なんという・・・」 これでは、まるで、 戦争だ。 プロトは、闇蜘蛛を放りなげると、ダッシュでソナー室へ駆け込んだ。 闇蜘蛛は、危うく海にドボンの所を、部下の必死の尽力(襟首をつかんで甲板に一本背負い)で、事なきを得た。 踏んだりけったりだ。 「どれだあ?」 「こ・・これ!」 ソナー手、もう、半泣き。 エコーはたしかに、潜水艦。プロトには分からないが、トラファルガーっていう奴らしい。 「・・・・ん?」 プロトは、ちょっとひっかかった。 「トラファルガーってのはイギリスの奴だよな・・・・」 ぱっとデッキに駆け戻り、闇蜘蛛に尋ねた。 「あんたらの雇い主は?」 「んな事、おいそれといえるかい!」 腰を思いっきり打った闇蜘蛛は返した。 「言わないとえらいことになる。今来てるのは、イギリス海軍。 おたくらの雇い主はあ?」 「・・・・アメリカ。」 「アメリカに対して疑いはあ?」 「そら、まあ、どえらくあるが、脅迫状出したし・・・わてらネコババしようとしたし・・・けど、それで動くんやったら・・・」 「やっぱアメリカが道理ですなあ!兵力的にも。」 じゃ、なんでイギリス軍が来ているんだ? 闇蜘蛛は、じつは予感がしていた。 第六感とでもいうのであろう、冷や水を被ったようなこの感覚。 何故、アメリカじゃないのか、アメリカは動けないから。 何故、動けないのか・・・・・・・・ 「おいっ!ラジオならせっ!なるべくニュース番組!」 「は・・はいっ!」 闇蜘蛛はこの勘を信じたくなかった。 はずれていることの確かめに、ラジオを鳴らさせた。 チューニングを合わせるときの砂嵐音がして、そのまま淡々としたアナウンサーの声がする。 「・・・・・です、ゲリラ闇蜘蛛と米大統領との癒着を暴きだしたガイア共和国。これははたして、どのような国なのでしょうか、詳細を・・ 「切れ。」 「え・・・・もう?」 「いいから、切るんや。」 ばれている。 全て、なにもかもがばれている。しかも、 ・・・・・・・・・・・・・・・またしても! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・またしても! 「ガイア・・・ガイア!ガイアガイアガイア!」 「魚雷発射管に注水!」 「トリムタンクブロー!アップツリム二十!ロック開始!」 「・・・・いいんですか?」 潜水艦の船内は、暗くて狭い、それゆえ、独特の雰囲気がある。 「ああ、もちろんだ。命令だからな。」 潜望鏡が、海面でぷかぷか浮かぶ闇蜘蛛のボートを捕らえた。 「スペアーフィッシュ魚雷発射用意!」 |
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