落し物は交番に

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「・・・・オレはこんなところでは死にたくないなあ。」
「まあ、あたりまえやろな。」
プロトは、闇蜘蛛の肩に手を置いて、やる気のない声で語った。
「オレは落し物を手に入れたらさっさと帰りますが、あなた方は?」
「・・・・つながりがばれた時点でこの計画は頓挫しとる。
 あんなもん、無用の長物や。」
「けど、脅迫状贈ったんでしょ?」
闇蜘蛛は、それを聞いてニタリと笑った。
「気付いてましたか・・まあ、ええんや。あれは。」
そう言って、あくせくと対潜戦闘の準備をする部下たちに、一喝した。
それだけで、パニック寸前だった彼らの足並みがそろう。
「物がなくてもあるように見せれば案外物事は上手く進むもんでっせ。
 事実、モデルガン一丁で銀行強盗をやった男もおるんや。」
どこに隠していたのか、爆雷が持ち出される。
ついでに、大量のサブマシンガンも。
「ま、なんとかなるっちゅーことですわ。
 どっちにしろ、わいらはもとからお尋ねものでっからな。
 立場はかわらへん。」
そういって、ぐぐっと拳に力を入れた。
「コンクリートゲリラ闇蜘蛛、謎の侵入者とともに潜水艦に快勝!
 こんな痛快なニュース、最近ありまへんわ。なあ、アンさん。」
プロトは、小さく頷いて、笑った。


●第十二話  ごちゃまぜ


「だからっ!なんでお前らが出てくるんだっ!ええっ!?」
「うっせーや!貧乏人!てめえらトナカイと遊んでろ!」
「ふんっ!貴様らのような下賎の会話には高貴な仏人はついていけんわ。」
「だまれ!油断してエッフェル塔燃やしたくせに!」
「な・・・なんだとおっ!そっちこそ、しわくちゃの婆さん相手に、
 なーにが女王様だ!この石頭ヤロウ!」
「あーーーっ!不敬罪で告訴するぞテメーッ!」

と、まあこのように、この近くに無線家がいたらさぞ大笑いしていたであろう、
という会話がここらに集まった落し物目当ての各軍同士で続いていた。
そもそも皆目的は同じなのだが、いかんせん軍人という稼業は、
やたらと愛国心と誇りと責任を重んじるので、
単なる無線通信もこういった論争に発展してしまうのだ。
やれやれだ。
だが、闇蜘蛛連中にとってはむしろチャンスであった。
艦長が無線にかかりっきりで潜水艦の動きが止まっている今こそ、
攻撃する千載一遇の機会。
「爆雷投下!」
かけ声とほぼ同時に、だっぽんとタルのような物が海に落ちる。
「前方、爆雷接近!」
と、トラファルガーの中でソナー手が叫んだ。
「ちっ!ダウンツリム五十!
 それからあの船にスピアーフィッシュ魚雷(高速魚雷)をぶちこめえっ!」


「当たったか?」
「さあ。」
しばらくして、爆音とともに水柱があがったが、依然として潜望鏡はこちらを向いている。
「畜生!はずした!」
「魚雷二本!接近中!・・・って、はやいっ!」
水中に、船に向かってあぶくの線が二筋見えた。
「面舵逃げろーっ!爆雷もう一発!」
もう一回、ぼっちゃんと爆雷が海に落ちる。
けど、はずれ。
魚雷は一本はそれたが、もう一本は一直線に飛んできた。
闇蜘蛛とその部下が甲板の上からマシンガンで魚雷を沈めにかかる。
数掃射すると、魚雷に弾が当たったのか、めきめきと音を立てて、

大爆発とともに水柱を立てた。

「ぎょえええええっ!」
「うおおおおっ!」
その衝撃にひっくりかえりそうになる、闇蜘蛛の船。
「びびったらあかんっ!全速力で逃げるんやっ!」


 


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