落し物は交番に
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| 「・・・・あれ。」 「・・・・・・・・妙やな。」 追ってこない。 潜水艦が追ってこない、潜望鏡すらも見えない。 トランジェントも、スクリュー音も聞こえない。ソナーの隅っこに影があるだけ。 「おやぶーん、エコーしかありませんぜ。」 「・・・こいつは・・・」 「どないしたんかいな・・・?」 ●第十三話 狢を血で洗う 攻撃中止。 その一言で潜水艦という圧倒的な戦力は動きを止めざるをえない。 「・・・・では、MWはいかがします?」 『あれはとある国家が引き取る事になった。』 「ほう、どの国家です?」 連絡兵から無線機を奪い取ってじつにシニカルに艦長である男が言った。 『・・そのことを君が知る必要はないだろう、キデリニ君。 たとえいかなる事情があっても、上の言う事には絶対服従。 訓練施設でマスター(教官)にみっちりそう仕込まれただろうが。』 「なるほど、人間誰しも弱い物はあるということですな。」 『・・・・何が言いたい。』 「自分は確かに学歴がよくありませんが、賄賂というものぐらいは知っています。」 『・・・・』 「それに、金というものの存在も熟知しております。 このオンボロもその金で作られたものなのですからな。」 『言いたい事を言ってくれるじゃないかね。』 「自分はちがいますので。」 『ちがう?なにがどうちがう?』 「自分はあなた方と同じ穴の狢ではありませんのでね。」 闇蜘蛛は、知将ともたたえられた男でもあった。 連中が動けるのに、動けないのも、上でごたごたがあったからだと気付いた。 だが、潜水艦相手にこんな小舟で対抗はできない。 積んである爆雷もあと一発。おまけに、こいつが当たった程度でぶっ壊れるほど、潜水艦はやわじゃない。 「どないしょっか・・・」 思わず、唸り声が上がる。 「あれに穴は開きますかなあ?」 プロトが水平線を見渡しながら言った。 「あなでっか・・・むつかしいなあ・・・浸水させる理屈は分かるんやけどなあ・・・この武装じゃあ・・・」 さすがにプロトもびびっていた。 銃弾の雨あられの中に飛び込んで眠る事でもできるプロトだが、 魚雷となるとさすがにわが身が吹っ飛ぶだろう。 「まいったなあ・・・こりゃ・・・」 「そや!」 突如、闇蜘蛛が指を鳴らした。 「一番の武器があるんやった!」 血は血で洗う。 争いは争いで洗う。そして全てを然るべき場所へと戻す。 どこかの格言である。 マフィアの物だったような気もする。 「まあ、どちらにせよ・・・・」 トラファルガーのスクリューが回りだす。とんでもない勢いで。 そもそも攻撃中止命令というのは火器使用禁止命令ということである。 だったら・・・ 「火器を使わなければいい!」 急速に潜航して、突然頭を四十五度で上げる。 そのまま海面に向かって突っ込む。 これが、潜水艦の緊急浮上である。 「あの程度の船ならば・・・・一撃で粉砕できるな・・」 にやりとほくそえんで、 「急速潜航開始!緊急浮上の用意だ!」 |
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