落し物は交番に

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首都高のど真ん中を黒光りしたベンツが一台走っていた。
なかには数名のガードマンと運転手、それに外務大臣。
車内電話が鳴った。
「私だ。」
『やあ、荒巻君。』
「・・・首相。これはお珍しい、どのようなご用件を?」

ところかわって首相官邸。
「うん・・・・ああ・・・それでな、ワシの意見と君の意見の差があるかを確かめたくてな、・・・うん・・・そうだ・・。」


●第十五話  交番にお届けを


「ガイア共和国ですか・・」
荒巻外務大臣は、胸ポケットから手帳を取り出し、ぱらぱらとめくる。
「要度C、難易度D、外交新密度B、危険度Eの、どうということのない小国・・・・でした。」
各国のランク付けをやっているというのは大臣としてあまりいいことではないのだが、
民衆の代表ともなるとそういうことは通じなくなるらしい。
『でした?過去形かね?』
「ええ、今は危険度が・・・・・」

「Sクラスです。」


「空蝉の術船舶バージョンというのはいい作戦だった!」
「ま、わいも突っ込んでくるとは思ってなかったやけんどな。」
波の音、静かな潮騒の音。
「・・・・これから、どないします?」
「もち、『落し物』を受け取って帰ります。疲れたし。」
闇蜘蛛は、それを聞いて静かに笑った。
「まったく、踏んだり蹴ったりや。」
そう言って、ただでさえせまい救命ボートの中で伸びをしたものだから、
部下の全員に顰蹙の眼を向けられた。
プロトは、とにもかくにも疲れきっていた。
ここまで神経を使ったのは久しぶりな物で。
「・・・・来た。」
どでかいヘリコプターが、救命ボートの後ろで紐に引っ張られる『落し物』を、拾い上げた。



「現在、世界情勢はきわめて不安定です。
 我々では足元もおぼつかない瀬戸際かもしれない、なのに、あの国は・・・
 いや、あの男は、それも悠々と超えていけるでしょう。」

「そういうことも踏まえて、危険であると私は言いたいのです。」


もう、二度と会うこともないだろうと闇蜘蛛もプロトも思っていた。
会ったとて、忘れているかもしれない。
けど、けっこう面白かったと思うのだ。
闇蜘蛛一味も、プロトも。
「じゃ、また今度、麻雀でも。」
「あばよー侵入者さんよー!」
「いつかこの借りは返すからなー!」
「うけてたつわい!図書券とかけち臭い真似しちゃあかんでえ!」
そう、最後に一味と言葉を交わして、プロトはヘリコプターに乗った。


「・・・・なるほど、君の考えはよくわかった。
 ワシも心のどこかにとどめておくよ。」
『お願いいたします。』
電話を切って、K氏は息を吐いた。
それから、また別の考えに頭を移していこうとした。
首相には、考えなければいけない事がそれこそ売るほどあるのだ。
いそがしいオッサンである。
「なにおうっ!」

ヘリに乗り込んで、まず目に入った物、それは・・・・・
向日葵。
「なんでいるっ!?」

「いやあ、暇だったしさー。」
「そうそう。」
「エースのジョーと呼ぶ人もいないし。」
「「そうそう。」」

なんか、どうにもノリがつかめなかったが、とりあえず、
ようやく『落し物』を交番に届けられると分かって、プロトは、ほっとした。
心から、ほっとした。
「ちなみに運転手は私です。」
「九月嬢!?」




「このヘリコプターは変形もするんですよ。」
「いやいやいやいやいやいや、やめて下さい。ほんっきで」


 


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