それが何か


まっこう丸乗組員七十二名は陰も形も無かった。
海保の三週間半に及ぶ必死の捜索でも発見できなかった。

「と、いうわけでむこうもお手上げになったからいまさら『まっこう丸』の
 視察ッスか・・」
「仕方が無いだろ、刑事課でこの件はってんのは俺らなんだから。」
白い中古のワゴンに乗って、二人はぼやいた。
ひどくオンボロのこのワゴン車は、畑守の安月給で最近ようやく買えたものだ。
「はあ・・・・雪ぴょん・・デートはまた後でッス・・・」
助手席で携帯を見つつため息をつく緋龍を見て、
警察に三十年勤続でまだ独身の畑守は、「ケッ」という表情をした。
「どしたんッスか?」
「別に・・・・」


『まっこう丸』は、現在は海保から船主へ渡され、自分の倉庫に保有している。

まっこう丸所有者、藤倉明人氏の経営するフジクラグループ本社ビル。
このビルの裏にある大倉庫にまっこう丸がある。
「警察の物ッス。」
「まっこう丸の視察をしに来たんだが・・・藤倉さんは。」
「藤倉は海外出張ですので、ワタクシがご案内いたします。」
秘書らしき男が現れてそう告げた。

建前は視察だが、令状つきの立派な捜査だった。

「うひゃー・・・・」
「でっかいッスねー・・・・」
まっこう丸の前に立ち、二人は言った。

もともとこの船はやたらでかくてやたら古くて、
あまりいい船ではない。

「うひゃー・・・・」
「穴だらけッスねー・・・・」
その証拠に、緋龍の言うとおりたしかに船底には大小大量の穴が開いていた。
「このぐらい大きくてぼろになると、知らず知らずのうちにあちこちに、
 穴が開いていることも珍しくは無いんですよ。」
と、秘書が説明した。
「うやひゃー・・・・・」
「豪快ッスねー・・・・・・」

早速、あまりにもでかすぎると言う事で応援の警官を十数名呼んで、
捜査が始まった。



「まだ発見できていない・・か・・」
「海保の連中、今ごろ後悔していることでしょう。
 なんてものを見つけてしまったんだろう。とね。」
「それで警察にたらいまわしか・・・」
「警察にも手に負えませんよ。前例の欠片も無い代物ですから。」
「そうすれば、自然に防衛庁に手が回る・・・すなわち・・」

「私の元に・・!・・ヤツを手中に・・!」


都内K病院。
「嵯峨さんと面会がしたいんですが・・・」
冷ややかに受付は答えた。マスコミが連日同じ事を聞いてくるので、
もう慣れたものだ。
「面会拒絶中です。」
「いや、なあに。」
男は、にっこりと笑って、言った。
「RJHだと言えば彼にはわかりますよ。」


 


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