それが何か


「・・・すげーなこりゃ。」
「これで・・・・五隻目・・・・でしたっけ・・?」
海保が行方不明の七十二人を捜索しているとき、奇妙な事故が起こった。
四隻・・いや、こいつもあわせると五隻の巡視艇の船底にいきなり大穴が開き、
あやうく沈没しかけたのだ。
そしてこの五隻目は本当に沈没した。
んで、乗ってた船員の一人がパニくって携帯照明弾を撃ちまくって、

巡視艇を燃やした。

「なんなんだろうなー・・共通点かなんかないの?」
「帰港途中に東京湾で引っ掛けた・・・ぐらいだな。湾内でも場所は皆違う。」
「東京湾は一杯いろんなの沈んでるからなー・・」
「報告書どうしよう?」


「どうッスか?」
「今のところはべつだんおかしな所は無いな。」
倉庫で固定されている『まっこう丸』の調査は三日連続で続いていた。
が、怪しい所はあまりなく、唯一船底に一箇所他のとはひけをとる大穴があいていた程度だ。

「・・・・この穴から潜水艇が横付けして、船内に工作員紛いが入ってきたって言うのは・・」
「ぜったいないッス。誰がどう見ても自然に開いた穴ッス。」
「・・・・分からんじゃないか。見せ掛けとか、」
「そんなに言うなら見てみるッスか?」

と、いうわけで見てみることにした。

鑑識によると、
穴の直径は約3メートル、内側に向かって船壁がめくれあがっており、
明らかに外側からの衝撃で開いた穴と知れた。

「誰がどう見ても自然の穴ッス。」
「そうだよなあ・・・」
そこで二人同時に気付いた。
「ん?」
「お?」

爪痕がついていた。

てってけと緋龍は近づいてその異様な引っかき傷を覗き込む。
「なんじゃこりゃあッス。」
それは鋼鉄の船体についたとんでもなく深いひっかき傷であり、
なおかつ傷の底に、肉片らしき物があった。
「畑さん、ピンセットと鑑識を呼んでほしいッス。」
「・・へへ、てがかり(仮)その1ってとこだな。」

緋龍には心当たりがあった。
東京湾はこの頃騒然としていた。謎の同一犯の物と思われる事件が立て続けに起こっていたのだ。
小笠原近海のまっこう丸事件とは関係ない騒ぎだったが、
よくわからないものだった。
ひとつめ。
埋立地の仮設住宅が根こそぎ破壊され、埋立地には何かを引きずったような後が残っていた。
ふたつめ。
夢の島のあちこちが荒らされ、作業機械が数台完膚なきまでに叩き潰されていた。
みっつめ。
アメリカ軍の巡洋艦『ヨークシャー』は、
その夜船員が全員ホテルに向かっていて、港で眠っていたのだが・・・・
翌朝、甲板は滅茶苦茶に荒らされ艦橋ももげていた。

警察庁ではこれら一連の事件を大規模テロと位置づけていたが、
最近、一般公開はされていないがヨークシャーの船体にある物が見付かった。


ひっかき傷である。


だが、それも特殊な作業機械によるものとされていた。
では、この肉片はなんなのだろうか?
緋龍悠浬の頭脳が、フル回転をし始めた。


 


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