それが何か


仮に、悪魔がいたとしよう。
おぞましい悪辣な悪魔だ。

その悪魔は人を殺すとしよう、的確に人のみを狙って殺すのだ。
まあ聞くからにも恐ろしいだろうが・・・もし、
その悪魔は人間とよく似た姿形をしていて、近代的な暮らしをし、
殺人のとき以外はいたって優雅ならば、そのイメージも変わるであろうと思う。

だが、もし、

その悪魔に人間と他の動物の判別ができないとしたら?
本能と生きる意志のみで人を殺すとしたら?
姿形が恐ろしい物だとしたら?
きっとイメージは変わるだろう。サスペンスから、パニック物となる。
そのサスペンス的な人物はこれまででも多量に報告されている・・が、

パニック的なものが貴方の前に現れたら貴方はどうする?
またそれがどちらか、もとい、

それが何か、貴方には分かるだろうか?


荒い波しぶきの音に紛れ胃に響くような鈍い音を聞き、
緋龍、畑守刑事と、助手席にいた巡査・・・前川巡査は一斉に海のほうへ見返った。

悲鳴が聞こえた。

気付いたときには三人とも腰に手をかけていた。

そいつの全長は5、6mはあった。
強靭な腕と爪を持ち合わせ、さらに巨大な口を持っている。
ぬめぬめしたテクスチャーから見ると両生類のようであったが、
しっかりと体のところどころに甲羅のような物がついており、
さらにエラ、牙、先っぽから燐光を放つ触手etcが頭部の両脇から生えていた。

明らかに人ではなかった。
だが、今にも運転席の巡査・・・東巡査に、

喰らいつこうとしていた。

銃声が数十回鳴り響いた。
各々狙った場所は違ったが、効果はあったようだった。
耳に残る唸り声を上げて、そいつは信じられない素早さで海に飛び込んだ。


こうして、後に東京を震撼させる事になる怪物は世に姿を現し、そして消えた。


「ひ・・・東巡査!無事ッスかあっ?」
緋龍が叫ぶと同時に、残る二人は我に返ったように腰を抜かして失神寸前の、
東の元へと駆け寄った。
三人がそのとき常に銃口を海に向けていたのは言うまでも無い。


 


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