それが何か


半年前。
世界最大手の軍需企業RJHコーポーレーションに発注した新造潜水艦の試験を、
日本側の代表として見守っていた藤倉は、その日それを発見した。

海底の奥底に、それこそ潜水艦でもなければたどりつけぬ海底に、
金、鉄、セラミック、アダマンチウム、カーボン、合銀……何層にも及ぶ硬物質の塊があった。
サルベージ後、慎重な作業の結果、硬物質を全てはがすと、
内部からは一台の多足歩行機械が出てきた。

その機械に興味を示した社長の指示で、多足歩行機械は分解され、
その内側から擬似冬眠状態にあった初期化された電子頭脳を発見した。
この電子頭脳はまるで知的生命体であり、かなりの戦闘能力を有する事が判明。


やがてハワイの藤倉私設研究所でこの電子頭脳を三枚コピーし、
さらにコピーされた、いわば廉価版ともいえる電子頭脳を、
合成生物にダビングするという計画がRJHで持ち上がった。


計画では生物は三体造られ、
防衛庁を経由してRJHに回される予定だった。
彼らは電子頭脳と歩行機械のボディに描かれていた文字から、
『エヴィルクラス』と名づけられ、
α(アルファ)β(ベータ)煤iシグマ)が、それぞれの先任者により製作された。
だが、三体目に造られた煤E・・・

「これを君はイレギュラーにしてしまった!」
藤倉は唸った。
彼の唯一の誤算は、この古牙という男を過小評価していたことであった。
彼を小物と判断し、内側に眠る野心と歪を見つけられなかったのだ。
そしてそれが、今回の事態を招いたと言えた。
「オリジナルはコピーとは違う!さらに、エヴィル本体の様々な部品を輸送していた、
 まっこう丸!これをシグマは襲ったそうだぞ、何をした!?」
デジタル水槽を消してもう一度、たずねた。
「何をした!?」

古牙元成。三十五歳。独身。
肉親からも何もかもからも隔絶されたポートシティ入りを自ら望み、
東大研究所の異端として、異例の若さで、
ポートシティ入りを果たした。
それから十数年ここで暮らしていた男だった。
「・・・・・・所長は、興味がわきませんか。」
「なににだ!?」
古牙は、ひきつった顔で笑った。
「あれの本来の姿ですよ・・・」
「本来の・・・?」
「所詮、エヴィルタイプは全て実験室のプールの中で兵器になるためだけに造られた・・
 いわばマシンです。私はヤツのマシンの姿ではなく、
 自然に溶け込んだ姿が見たかったのですよ。」
藤倉は、とにかくイライラを抑えるため煙草に火をつけた。
肺に満たされた紫煙が、少なからずこの男に対するいらだたしさを薄めてくれるように感じた。

「君は自分が何をしたか、分かっているのかね。
 ヤツは、人を食うんだ!おまけにオリジナルをダビングした影響で、
 永久に進化し続ける!我々には止められなくなるかもしれのんだぞ!!」




「自分はこっちからッスか・・・」
緋龍は、藤倉グループの本社ビルの前に、再び立っていた。
「雪ぴょン・・・・・まだ当分会えそうにないッス・・・」
人使いの荒い先輩を恨みつつも、緋龍はせかせかとビルへと足を踏み入れた。


 


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