それが何か

10


「なあにっ、今年も優勝したんだし、来年もタイガースが優勝よっ!!」
『けっ、東京湾のど真ん中でなにほざいてやがる。原巨人はこっからだ、
 来年ほえ面かくなよ!』
「そっちこ―・・・・あん?」
『どうしたあっ?』
「探知機になんか・・・・・・・・・・・・・」
瞬間、第五雲竜丸の無線機に砂嵐が吹き荒れた。
「おい、どーしたあっ!?タイガースファンの福島よお。おおい!」
漁船猛虎丸は、ひっくりかえっていた。
水しぶきを立て、所々から機械や人間が悲鳴を上げ、
ゆっくりと沈んでいった。
『どおしたあっ!おいっ!』
この東京湾に眠る脅威の存在を、まだ人々は知らなかった。
そしてその無知さが、今彼らを絶体絶命の窮地に立たせていた。

まるで三流の刑事ドラマだと緋龍は思う。
藤倉氏にお伺いしたい事がで始まり、アポはお持ちですかでつながる。
持ってないッスが、急用があるッスと続き、
結局の所、
「お帰りください。」
と、腕の骨2、3本おったろかというような屈強なガードマンに取り囲まれた。
「・・・ちょっとこれは乱暴ッス。」
「失礼、ですが会長のご指示でして。」
伸縮式の警邏棒を取り出して、ガードマンたちはニヤニヤと笑う。
「お引き取りください。」
「それはちょっと無理ッス。どうしてもお伺いしたい事があるッス。」
もしかしたら、藤倉はここにいないのかもしれない。
緋龍はそう思えてきた。
もしいるのならば、会えないそれ相応の理由を言うだろう。
まるでこれはいないことを隠しているようだ。
「お引き取りください。」
ここは一旦退こうかなと思ったが、
さらに挑発的にガードマンが指をぽきぽき鳴らし始めたのが、
緋龍の刑事としての感に無茶苦茶触った。
明らかに敵対意識を彼らはこちらに向けている。
やや空気が緊張してきた。
受付嬢が困った表情を見せる。周囲の人間も遠巻きになる。

一触即発・・・・・・

ぴるるるる・・・・ぴるるるるる・・・・・

不意に、その空気を根底から打ち崩すかのような携帯の音が鳴った。
緋龍のメールだった。
ちらりと画像を見て、思わずにぱ、と笑う。
緋龍は、くるりとガードマンに背を向けて、受付嬢に尋ねた。
「藤倉さんはここにいないッスか?」
完全にびびっていた受付嬢は、つい口を滑らした。
「は・・はいっ!仙台沖のポートシティに!」
「そうッスか!お邪魔したッス!」
いそいそと外に出た緋龍を、周囲は唖然と見送った。

「仙台沖ポートシティ。藤倉と弓次がそこの出身か・・」
畑守は、口の中にてりやきバーガーを放り込み、にぱっと笑った。
あちこちに散乱した資料をかき集めて、呟いた。
「面白くなってきたなー・・・・・」

緋龍は、そこらのベンチに座って携帯に番号を打った。
しばらく待つ。

「もしもし、雪ぴょんッスか?メールありがとうッス。
 うん・・・・・うん・・・・・ごめんッス・・・今度・・うん・・」
なんとなく、彼女は照れ気味だったように思えた。久々だからだろうか。
今はただ、この会話だけに緋龍は没頭していたかった。


 


第11話に進む
第9話に戻る
図書館に戻る