それが何か

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夕刻。
久々に彼女と思う存分会話ができて、緋龍はご満悦だった。
初めは海外出張だったのが数日で仙台ポートシティに何故かいるという藤倉の矛盾も見つけたし、
いいこと尽くめで機嫌がよくて、足早に畑守との合流地点を目指す緋龍だった。
思わず、鼻歌も出るというものだ。
そしていつのまにか合流地点、某ハチ公前。
「よう、ご機嫌だな。」
「ちょっと公私ともにいいことがあったッス♪」
「そうか。」
だが、それを聞く畑守の顔は、何故か浮かなかった。
「・・・・どうしたんッス?」
「緊急招集。」
溜息交じりに畑守は言った。
「捜査は一時中断、警視庁に赴いてお偉方と会議に参加しろとよ。」
緋龍のご機嫌状態が一瞬で崩れ去った。


「現在までに起きた事件は既に数十件に上っております!」
「死傷者も既に出ています。中には生死不明の方もいらっしゃるとか・・」

「それも含めての当然の処置だ。」
「秘匿主義など旧ソ連ではあるまいに、この脅威は東京湾全体に蔓延している!
 いつまでも隠し通すことは不可能だ!」

「万が一自衛隊の出動などと言う事態を招けば、我々警察機関の醜態を世にさらすことになる。」
「それだけはなんとしてでも避けなければならん。」
「更に『ヨークシャー』の事件もあってから在日米軍には警戒態勢が出ている。」
「この世論がうるさい時期に何故よりにもよってわが国でこのようなことになるのか・・」

「警視庁の内部には防衛庁や自衛隊のOBも網を張っているんだ。
 状況の改善をなんとしてでもしなければならん。」
「悟られてからでは遅いからな。」
「ここは我々の面子をなんとしてでも守らなければならない。」


「そう思うだろう?畑守君。緋龍君。」
どう思えばいいのやら、正直に言って畑守には分からなかった。
「はあ。」
とは、とりあえず答えておいた。
緋龍は、会議が始まって十五分だがはやくも帰りたくなっていた。
先輩刑事のご説教の方が聞いててもまだ楽になると言う物だ。
「しかし今だなんの対策もしていないのではないでしょうか?」
皮肉を込めて畑守は言った。
「それを話し合うためにこの場を設けたのだよ。」
と、警備部部長はこたえる。

いつその事を話し合ったのでしょうか?と、尋ねそうになったがやめた。
畑守もそこまでバカじゃない。

「事はあわや政治の舞台に立とうとしている。それを防ぐためにも君たちのポストは重要だ。
今までの捜査で分かった事はあるかね?」
ようやく本題。

「えー・・・まっこう丸に関してですが、私の捜査ではこれを管理している藤倉グループが、
 何故か防衛庁とつながっていると言う可能性があります。
 また、このグループの頭取藤倉と科捜研の所長弓次は、
 情報や財政に関して太いパイプを持っていることが判明しました。
 そしてこちらの緋龍刑事によって、
 海外出張中のはずの藤倉が何故か今、仙台国際研究ポートシティにいることが判明しました。」

「それはすべてあの怪物がらみなのかね?」

「ええ。科捜研の所長弓次が提示してきた怪物の資料が、
 全てに渡ってやたらに詳しく、また細かく調査した所その全てが、
 どれも仙台ポートシティと藤倉グループを介されたものだと分かりました。」

「詳しいだけでは捜査の決め手にはならんだろう。」
こうは言うがなにもしないキャリア上がりの警備部2課長が言う。

「まったくの未確認生物の資料が詳しい。これ以上の不自然がどこにあります?」


「君の捜査だと、
 あの怪物はまっこう丸、そして藤倉グループ、防衛庁となんらかの関係があり、
 さらに藤倉は同校のよしみで付き合いの深い弓次を通じて、
 本来ならば極秘のはずの怪物の存在を知り、
 さらにそれの対処をするためにポートシティに戻ったと?」
まるっきり馬鹿にしたような口調だった。
「そう、私は予想しています。」


 


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