それが何か

12


畑守はキレそうだった。
せっかく生まれてはじめてやってみた熱弁も、一笑の下に叩きのめされ、
彼の持論は黙殺、仙台ポートシティには手を出すなと言われたからだった。
「誰がどう考えてもクロですっ!」
課長室に再び足を踏み入れたことに畑守はいささか後悔していたが、
今回は訳が違う。
「ヤツの目撃ルートをさかのぼってみても、仙台より北は確認されていませんっ!
 まちがいなくポートシティから・・・」
言い終える前に、ちょいちょいと課長は畑を手招きした。
耳元に口を寄せて、早口でささやいた。
「間違いないのか?」
自分の勘も含まれてはいたが、畑守はとりあえずうなずいた。
「今日、本部長からとうとう遠まわしに釘を刺された。
 上のほうでもいろいろと動き回っている。だがな、君らはとりあえず動きを潜めたまえ。
 突然、身に覚えのない汚職が出てくる事が警察にだってある。」
ぱっと身を課長は離して、厳しい口調で言った。
「証拠不十分だと説明しただろうっ!」
畑守も調子を合わせた。
「厳重注意でいいんです!」


仙台から一台のBMWが走っていた。
車好きの人ならば、「おう!限定車の云々・・」「ひゃあ!エンジンもフランス製!」などを気付く。
が、単に金に物を言わせて豪華な車を取り揃える藤倉にとって、
そんなことは関係ないことであり、そしていま考えられる余地がなかった。
昨日出した古牙の解雇命令。出して二時間後に古牙は言った。
「彼の元に行ってきます。」
彼、というのは・・・・彼とは・・・
考えるだけで身が震えた。

狽ニやつを引き合わせて何が起こるのか藤倉にも予想がつかなかったのだ。
だが藤倉にはもうひとつ分からなかった事がある。
古牙の動機である。

藤倉は、毎日研究にいそしみ、骨身を削って働く古牙を、
少なからず目に入れていた。
いやさ、彼の熱意に尊敬していた節もあった。
その彼の行動の意図が、いまいちよくわからなかったのである。
「何故、いつごろ、やつはああなったのか・・・・・」
などと考え、思考をめぐらせる。



「古牙君。何を触っているのかね?」
「オリジナルのブレインですよ、所長。」
「ははは、ハワイまで来た甲斐がある代物だろう。」
「ええ・・・・・素晴らしい・・・・・」
「こいつだけでも技術力は我々の数レベル先を進んでいる、
 まったく、グループの会議を蹴ってきて良かった。
 本当はグループのほうが副業なのに、すっかりあっちが板についてしまったからな・・
 血が騒ぐよ。」
「・・・・・・・・」
「古牙君?」
「ああっ!はいっ!」
「そんなものを触って何を呆けているんだね。」
「い・・・いえ、なにやらちょっと声が・・・いや、なんでもありません・・」
「ふんっ、さて、そろそろダビング作業にかかるぞ




一瞬、まぶたが閉じていた事に気付かなかった。
どうやら、眠っていたらしい。
「・・・・声。」
古牙が聞いたオリジナルのブレインの声?
忘れていた。
「・・・・・・・・・・・声。」
なにかが、読めてきた気がしたころ、茨城のI.Cが見えた


 


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