それが何か

18


「で・・・どうかね、緋龍君。」
野沢は、この緋龍悠浬と言う男を、そこらのキャリア連中と同じだと思っていた。
彼が知るキャリア上がりの連中は、
若く、周りのお偉いさんの腰ぎんちゃくでもなければ生きていけないような奴らばかりだった。
彼にとってそんなキャリアたちは駒の一つであり、この緋龍もその内だった。
ヤツは畑守に賛同して入るが、その畑守は既に黙らせたのだ。
地位もあり、人望も金もある自分に協調するに決まっている。
決まっている。

「あれは危険物だと思うッス。」

緋龍の一言に、野沢から脂汗が滴り落ちた。

「人を喰い、行動範囲も広く、殺傷も容易ではない。
 それを捕まえて隠匿すると言う事は、危険物の不法所持に等しいことッス。」

脂汗がどっと増えた。集めればガマの油にでもできそうだ。

「危険物の不法所持・・立派な犯罪ッス。」
「だまれえっ!!」

なんだこいつは・・・・
違うぞ・・・他のキャリアなんかとは格が違う・・・流されない!
誤算が生まれた。
この傲慢なハゲに久々に誤算が生まれた。
それに気付いていないと言う事実が、今、この男をとてつもなく無能なものにしていた。

「ちょ・・・・」
「まさかそれで懲罰委員会に掛け合って云々・・なんて言わないッスよねえ。
 野沢邦彦政務次官♪」
いつもと全く変わらぬ笑みで緋龍は言った。

野沢は早くも足元がすくわれる思いだった。


『ディスイズウィザード。ターゲットサーティノットオーバー。』
『ラジャーウィザード』


陸自の通信班がせかせかと仮設本部に上がりこんできた。
「目標が接近ちゅ・・・・・」
一瞬、それまでの状況に居合わせて言葉がのどに詰まった。
おびえる自衛隊のキャリア。いつもの表情の緋龍。
あせりまくる野沢、唯一、こちらを向いてくれている畑守。
なんともいえぬ雰囲気にも、通信班はめげずに立ち向かった。
「も・・・目標が時速三十ノットでこちらに接近中であります!
 戦闘準備よろしくお願いします!」
「分かっておるわっっ!!」
野沢の怒号が響いた。


東京湾の汚れきった水面を掻き分け、そいつは海上に飛び出した。
全長はだいたい十数mまで成長しており、前は単なる甲羅が今ではまるで装甲版のようになっていた。
怪物は信じられないスピードで、一直線に処理場の港に停められている、
自分がつけたマーキングつきのまっこう丸へと猛進していた。

「・・・奴らが何をほざこうがこれは内閣と米国が認めた決定事項だ!
 なんの支障があるものか!」
「随分とご機嫌が悪いようですな。」
息巻く野沢の真後ろに、藤倉が構えていた。


 


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