それが何か

19


「目標、処理場内に上陸を確認しました。
 現在速度は水中より圧倒的に低速。こうやって見ると足がほとんど退化しています。」

「目標、第一次地点を通過。一直線にまっこう丸を目指しています。」

報告し終えた自衛官は、その目標をまじまじと見た。
自分たちには見向きもせずに、マーキングに進む怪物。
喜びに満ちているような顔で突き進む怪物。
背筋が凍った。
凍ったついでに通信機を手に取り、
「第一行動、開始許可願います。」

「開始を許可する。」
野沢は軽く言って、受話器を置いた。
既に緋龍と畑守、その他自衛隊のザコ共は、怪物が出てきた瞬間飛び出していた。
「もう、入っても結構ですよ。藤倉さん。」
パサリとテントをまくって、藤倉が現れる。
彼は、特殊弾頭の運び屋兼、防衛庁とRJHのパイプとしてここにやってきたのだ。
「本当なら今すぐにでも古牙をさがしだしてこの手でひねり潰してやりたい所を、
 なんとか自制しましたよ。」
「ご心中、ご察ししますな。・・・・・で、」
野沢は、モニターに映る目標をチラリと見た。
「あれはどうですかな?」


「目標!まっこう丸から離れました!
 現在、数百m先のエサに向かって移動中!」
『監視を続行せよ。』
歩いていると言うよりは這いずり回っているという感じだった。
そこらのコンテナや資材をなぎ倒し、まっこう丸から離れた怪物は、
エサとして置かれていた解凍したての牛の塊を、
単なるクマに水かきをつけたような手から、五本指にまで進化した腕で器用に掴み、
そのまま丸呑みした。

「うわ、もったいないッスねー!」
「国産だってさ。」
「さらにもったいないッス・・・あれもらって雪ぴょんへのお土産にしてやりたいッス・・・」

その隣に、また無線誘導トラックに乗った肉塊が現れた。
それもひょいと掴んで、丸呑み。

「・・・・あれじゃ遺体も残らないわけだ。」
近場の高台からまさに高みの見物を決め込んでいた畑守は呟く。
その横では緋龍が、あいつが肉をほおばるのをじっと見ていた。
「形が前と違うッス。」
「ああ、前よりもグロくなりやがった・・・」
ぬめぬめしていて筋肉質、前の肺魚かオオサンショウウオとはうってかわって、
悪趣味なエイリアンのようだった。
「写真でも少しは分かったが、現物はもっと怖いなー・・」
ずるりずるりと襲撃ポイントに誘導されていく怪物を見て、また呟いた。


「総員!射撃用意!四肢を狙え!外すなあっ!」
襲撃予定地点周辺の、コンテナ裏などでは、陸自の狙撃班たちが血気盛んに構えていた。
「もっと近づけろおっ!!」


 


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