それが何か

26


「生き物だ・・・あれは生き物だ・・・・」
それ以外の何者でもあるはずが無かった。

生き物=死ぬ

今のところ畑守の自我と精神をとどめているのはこのたった一つの事実のみだった。
あれがどんな化け物だろうがなんだろうが、どこかをどうかすれば必ず死ぬのだ。
どこかをどうすれば必ず死ぬ。
そう、自分に言い聞かせて、チラリと窓からヤツを覗いた。
そこらじゅうに散らばったカラスの骸。
その中心に陣取り、木を倒したりして次なる獲物を探すヤツ。

「・・・・・・・」
まるで、楽しんでいるかのようだ。
人間が狩を楽しむかのように、あえて獲り辛い所にいるカラスを狙って、
その強靭なアゴで喰らい潰す。
「・・・・・・・」
殺人犯、それも特に異常なシリアルキラーを見ているようで、畑守はムカついた。
人間もあれも大差が無いという事に、ゲッと腹が立った。
「・・・・・・・」
一瞬、畑守は、空自のパイロット君が銃の一丁でも持っているかと期待したが、
一介の自衛官、それも下っ端のぺーぺーが常時そんなご大層な物をもっているわけが無いと気付き、
未だに状況が飲み込めていないパイロットから目をそらした。
「・・・・・・・・!!」

直後、畑守の視界に、有り得ないものが飛び込んできた。


彼はすっかり退化した眼で目の前に飛び込んできた白いものを見た。
それは、今まで自分がたまに口にしていたものに似ていた。
それは、なにやら叫んでいた。

「・・お・・おいっ、あんたっ!」
自衛官は、とりあえずこの状況だけは何とか飲み込んだ。
「あ・・あの化け物の前にいるのは・・人だよなっ!!」
戦慄に震える畑守の、よれよれの袖を引っ張り、
「く・・・く・・く・・食われちまうぞっ!!」
と、化け物の鼻先の前に立つ研究員風の男を指さした。

「私がお前の声を聞いたんだ。エヴィル・ファーガ。」
大きな声で古牙は叫んだ。
機動隊の封鎖網をかいくぐり、幾多の木々や茂みを乗り越えて、満身創痍となった彼は、
もう一度、にこやかに言った。
「お前の声を聞き、お前の境遇を知った。」
ずたずたになったコートを脱いで、地面に置いた。
「そして、お前の助けを求める声を聞き、お前を生物として再生した。
 エヴィル・ファーガ。」
精一杯にこやかに、語りかける。
「お前を自由にしたぞ、エヴィル・ファーガ。」
その生物として生まれ変わったエヴィルは、自分の顔をまじまじと見ていた。
「今度は私に教えろ、お前のメカニズム、ありとあらゆること、その黒ずんだオーラ、
 その全てを私に教えろ!エヴィル!」
古牙は、一歩、エヴィルに近づいた。
「教えろ!」
その瞬間、彼の集大成である、エヴィル・狽ヘ、笑った。
確かに、笑った。


じつに美味しそうな獲物を見つけた喜びを表現した。


 


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