それが何か
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| 「かまえーっ!!」 緋龍がジープから飛び降りたのと同時に、葉護崎が号令をかける。 「畑さーん!ふせるッスー!」 反射的に畑守が自衛官の後頭部を、崩れ落ちたトイレの床に叩きつけ、 自分も身を伏せた。 「撃てーっ!!!」 『始まりましたっ! もう日も暮れてまいりました今、この時! ここ上野公園園内にて日本初の自衛隊による市街地戦が行われております! 聞こえますでしょうかこの轟音が! 私ももう数年この仕事をしておりますが、このようなすさまじい音の嵐は聞いた事もありません!!』 藤倉は、イヤーホンから聞こえるアナウンスに、耳を傾けていた。 軽く鼻を鳴らして、少し音量を下げる。 饒舌にしゃべり続けるアナウンサーは、全て偽りの戦いのさまを、 機動隊にさえぎられて見てもしないのに、やたらとリアルに語り続けている。 「・・・・・狽熏ナ後か・・・」 そう考えると、とんでもないことだがなにやら惜しい気もした。 オリジナルのコピーと言ってもいいあれが、どのような行く末をたどっていくのか、 彼にも少なからず興味があったのだ。 だが、それにしても、 今回の事件で、彼が得たものは何もない。 愛弟子の裏切り、政治的な茶番劇、その結末が国外逃亡・・・ 情けなかった。 これが、東大、つくば、仙台沖ポートシティで名を馳せた科学者の末路。 そう考えると、何もかもが空しかった。 ラジオの中で、ずっとしゃべり続けているアナウンサーの声が、 激しい音にかき消された。 『アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。 当機はまもなく離陸態勢に入ります・・・・・・・・・』 強烈なエンジン音とともに、藤倉を乗せた飛行機は、ゆっくりと走り出した。 日も暮れようとしていた。 ダッシュでそこから離れた緋龍が、マズルフラッシュが止んだのを確かめ、振り向いた。 そこには、悠然と立つ怪物の姿があった。 あれだけの銃弾を受けて倒れもしていない。 いや、その銃弾が、地面に大量に転がっている。 指揮車の中、葉護崎が無線機を手に取り、呻くように声を荒げた。 「第二射、用意・・・」 怪物がゆっくりとかまくびをもたげ、牙を鳴らした。 笑っているようにも見えた。 「撃てーーっ!!!」 さすがに今日一日で通算三回目の射撃命令に、葉護崎は疲れていた。 覇気が無い。 だが、怪物の覇気は依然として保たれている。 まるで王者のような風格すら伴って、飛んでくる銃弾をその体で弾き、 逆に縦列に突っ込んできた! 這いずる胴体で人々を踏み潰し、縦列を突破する。 さらに、縦列の真横に止まっている葉護崎の指揮車に、強靭な尾の一撃を加える。 暁の下、大人と子供の喧嘩のように、怪物は人々をなぎ倒す。 楽しんでいるかのように、けっして食さずに、なぎ倒す。 明らかに、自衛隊の劣勢。 現在ここにいる戦力が、今園内にいるほんの一部だとしても、 醜態には違いなかった。 命からがらトイレ跡から飛び出た畑守が、 怪物同様這いずるようにして、木陰に立つ緋龍のもとに駆け寄った。 後ろに、パイロット君がついて来ている。 「駄目じゃねーか・・・」 息を切らしつつ、めきめきと音を立てて踏みつけられる指揮車を見る。 「畑さん、ちょーっと待っていてほしいッス。」 「待つって・・・どうした・・・」 畑守が言い終わる前に、爆炎があがった。 指揮車がとうとう潰されたのだ。 葉護崎の乗っている指揮車が。 畑守は呆然と火柱を見る。 躊躇いも何ひとつ無かった。 それどころかゆっくりと、少しづつ、時間をかけて潰された。 「・・・・・・・」 緋龍の目つきが、ほんの少しづつ無感情なものになっていく。 「ちょっと、呼んでくるッス。」 と、去り際に言って、 夕闇の光景に歯軋りする畑守から背を向けて、機械のように走り出した。 その先に、戦車隊があった。 |
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