Summer in Gaia〜ヤツらの夏〜


以前激しい訓練の中で、鉄をも切り裂く力を得たミュー。(小説「KILL-MAN」参照)
彼女はかねてよりその"斬鉄"の力をみんなに見せびらかす機会をうかがっていた。
  
「いいかお前ら、よぉくみとけよ‥‥‥」
コインを凝視するブラックグラス。レッドグラスも読んでいた雑誌を置き、
ミューが手に持っている鉄製のコインに見入っている。

もう片方の手でサーベルを構えるミュー。そしてコインを上に放った。

「ハァッ!!!」
落ちてくるコインにサーベルで、"一閃"。
ぎン、と鈍い音がして床に叩きつけられるコイン。
床の上を転がるそれに何の変化も、ない。
「あ、あれ‥‥?」
「切れて‥‥」「ませんね‥‥‥」
「ちょ、も、もう一回!もう一回な?」
ミューが再びコインを放って斬りつける。
「どぅりゃあああッ!!!」
"ぎン!"
しかし結果は同じだった。
「あ、あれ‥‥‥あの時はできたのにぃ‥‥‥」
「無理みたいですね」「ていうかできるわけないんですよ、そんな細い剣で鉄を斬るなんて」
読んでいた雑誌に目を戻すレッドグラス。
「それでは私は皆さんのランチを買ってきますので」
部屋を出ようとするブラックグラス。
「え、えー?あ、いや、まま待てよお前ら!」
必死で失態を取り繕おうとするミュー。
「ちがうんだよ!本当にあの時はできたんだよ!
 こんな嘘ついたってしょうがねえだろ!?」
「ええわかってますわかってます」(半笑い)「信じてます信じてます」(苦笑い)
「ち、畜生てめぇら信じてねぇな‥‥‥!」
証明できない以上はミューも強く言い張れない。
仕方なくソファに腰をかけた。
身に纏った赤いマントの中からタバコの箱を取り出す。
「お前らも吸うか?」
「いえ結構」「休憩時間とはいえ勤務中ゆえ」
「なんだよお固いねぇ。まぁいいけど」
「ん?ミュー様は確か‥‥」「未成年では?」
「いいんだよ」
ミューが煙草を一本、口にくわえる。
「ん」
「‥‥‥。」
ブラックグラスが黙ってライターで火を点けた。
10歳以上年下ではあったが、ガーディアンズの先輩であるミューに、
グラス兄弟は頭が上がらなかった。
正確にはミューの"凶暴"さに、頭が上がらなかった。
ふぅ、と煙を吐くミュー。
「あ、ちょっと待て。ところでさ‥‥」
「はい」「なんでしょう」
「なんか今回の話さ、アタシらがメインらしいのよ、何しよっか?」
困惑するレッドグラス。
「え‥‥‥いや何しよっかと言われても‥‥‥」
弟に先んじて、ブラックグラスが手を挙げた。
「はいはいはーい!こんなんどうでしょ?」
「よし黒いの、言ってみろ」
「(く、黒いの‥‥!?)あれです、毎回ミュー様がゴードン大統領から課せられた
 指令を見事にこなしていく、その名も『スーパーミューチャン』!
 どうです、斬新でしょう!?」
「‥‥‥。」
ブラックグラスの額にジュウゥゥ、と煙草の火が押し付けられる。
「アッジアアア!!?」「あ、兄者ァァッ!?」
「それまんまスーパーミ○クチャンのパクリだろうが。大の大人がガンクビ揃えて
 アイデアの一つも出ねえのかよ」
「も、申し訳ありませんん‥‥‥
 (グッ‥‥‥こ、このクソガキャアいつか絶対ゴードン大統領にBR法施行
  してもらって無人島バトルロワイヤル送りにしたる‥‥‥!)」
「(兄者、やめとけって。たぶん余裕で生き残って帰ってくるよ)」

"コンコンッ"
ドアをノックする音がした。

「!‥‥やべ!キル爺だ!」
慌てて煙草を灰皿に押し付けて消すミュー。
「煙草吸ってんのバレたら怒られる!おいお前ら窓開けろ開けろ!煙逃がせ!」
「は、はい!」「りょ、了解!(ここは高校の部室かよッ!)」
部屋の窓を全開にするグラス兄弟。ミューが下敷きを仰いで煙を払った。

"コンコンッ"
再度ノックがされた。

クンクンと匂いをかぎ、大体煙草臭が消えたのを確認したミュー。
「うん、これなら気づかれねえかな?は、はーいどうぞぉ‥‥」
ドアが開く。
入ってきたのはキルマーではなかった。


第4話に進む
第2話に進む
図書館に戻る