Summer in Gaia〜ヤツらの夏〜


「お、お待ちになってゴードン様ぁぁぁッ!!?」
「ん、どうした?」
「な、なぜ今、吉野家なのですかアッ!?」
「たまにはビーフ・カップも悪くあるまい。店の衛生管理も良さそうだ」
ゴードンはさっさと席についた。

(クッ、よ、吉野家じゃロマ〜ンティックもヘッタクレもないじゃないのよッ!
 ていうかなんでこんな所にいつのまにか吉野家が出来てるのよ!?
 ジャッブの企業め、節操なく手ェ広げやがって‥‥‥!
 なんとかしてゴードン様を連れ出さないと‥‥‥!)

「い、いけませんわゴードン様!こんな庶民の店、ゴードン様にはそぐいませんわ!」
「ギュウドン大盛りを1つ。生卵も付けてくれ」
「ああンもう注文してるしッ!?
 でも、そんな人の話を聞かない自分勝手なゴードン様も素敵ッ‥‥」(半泣き)
ミューも仕方なくゴードンの隣に座った。
若い店員が二人の前にお茶を置いた。
「そちらのお嬢さんはご注文お決まりですか?」
「ん?ああ、特盛り肉だく5杯にギョク2つずつブチ込んで」
「‥‥‥え?」
「‥‥ハッ!」
我に返るミュー。店員はもちろん、ゴードンも好奇の目で自分を見ていた。
「随分と、食べるのだな‥‥‥」
「え!?い、いや、冗談ですわ!冗談に決まってるじゃありませんかホホホ!!」
「別に構わんぞ。持ち合わせはある。遠慮する事はない」
「い、いいえッ!本当に、本当に冗談ですのッ!わ、私は並一丁、いや1つで‥‥‥」
「はい、並一丁〜」
店員の声が響く。
季節は夏だったが、ミューの背中にはすでに秋風が吹き始めていた。
(はあ‥‥‥ゴードン様とのロマ〜ンティックなひとときが‥‥‥)
二人の前に牛丼大盛りと並盛り、そして生卵が置かれた。


吉野家の外から張り込みを行っていたグラス兄弟。
途中のファーストフード店で買ってきたハンバーガーをパクつきながら、
中の2人の様子をうかがっていた。
「あーあー結局牛丼になっちゃったね」「見ろよミュー様のあの残念そうなツラ」
「きっともっと大人の雰囲気な場所にしたかったんだろうね」
「しかし兄者‥‥‥ミュー様、並盛り一杯で足りるのかな」
「足りるわけねーだろ。特盛り5杯に卵バカバカぶち込まないと持たないだろ。
 きっと大統領閣下の前だから猫かぶってるんだよ」


ゴードンは器用に箸を扱い、牛丼を食べ始めた。
生卵を混ぜた丼をサラサラと口に運び、咀嚼する。
その様子を横からほうけた顔で眺めていたミュー。
「はー‥‥」
その頬がほのかに紅くなっていた。

(ああ‥‥‥牛共の肉がゴードン様の糧になっていく‥‥‥。
あの濡れた唇の中に滑り込まれていく‥‥‥)

「はあぁ‥‥‥」

(そして、ゴードン様の舌と歯で蹂躙されていくんだわ‥‥‥)

「ほー‥‥‥」

(ああ私も‥‥‥いっそのことあの牛丼の具になってしまいたい‥‥‥
 ゴードン様のあの舌と歯で弄ばれてみたい‥‥‥☆)

「‥‥‥‥‥‥。」
店員と他の客たちはかなり怪訝な目で見守っていた。
中年紳士が牛丼を食う様を、顔を上気させて吐息をもらしながら眺める少女を。


「兄者、ミュー様牛丼に手ェつけないけど、どうしたんだろうね?」
フライドポテトをかじるグラス兄弟。
「んー?おおかた、閣下が食ってるあの牛丼の具になりて〜とか考えてるんじゃねーの?」
「いやぁ、いくらミュー様でもそれはないだろ〜。もしそうだったら末期だよ?」

末期だった。


 


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