Summer in Gaia〜ヤツらの夏〜
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| 会場が興奮のるつぼと化す。 アダム・ワイルダーが今、舞台を共にするゲストを観客の中から選ぼうと しているのだ。 我を我をと手を挙げる人々。 「アダーム・スキャーン!」 アダムスコープが観客を吟味する。 自分と相性が良さそうな人を。 それでいて一緒にショーを盛り上げてくれそうな人を。 そして何よりも、美人の女性を。 (そうよ、なんでもない事だわ‥‥手を、握るだけですもの‥‥) ミューはチラリとゴードンの手を見た。 大きくたくましい、手。 (‥‥‥‥‥‥。) ふと、『あの時の事』が頭をよぎった。 ゴードンに拾われた、クリスマスの日の事を。 あの日自分は、あの手にぬくもりを与えられた。 人としての命を吹き込まれた。 あの日以来、そのぬくもりに触れる機会はなかった。 自分がゴードンから離れた役職に置かれたから? それもあったが、壁がそれだけならさっさと乗り越えたろう。 正直、ミューの方で、ゴードンにおいそれと近づけなかったのだ。 ミューにとってゴードンは『神聖』なるものだった。 (ゴードン様、嫌がったりしないかな‥‥) もし、拒絶されたらと思うと怖かった。 (でも、もう一度‥‥) 欲しくないわけがなかった。あのぬくもりを。 (触れても‥‥いいよね‥‥!) ミューは勇気を出した。 (触れても、いいよね‥‥ゴードン様の手に、アタシの手が‥‥) ゆっくりと、手をのばした。 『そこのファッショナブルなコロネ・ガール!君に決めたッ!!』 精一杯の勇気を出して伸ばしたミューの手は、虚空を掴んだ。 「!?」 「ミュー、よかったな。選ばれたぞ」 ゴードンの手が、舞台を指差した。 「はじめまして!麗しいお嬢さんッ!」 満面の笑顔で出迎えるアダム。 (うむ、恰好は少し派手だがテレビ映えしていいだろう。 目つきが少々キツいが可愛いから良しとするかぁ☆) 両手でミューの手をしっかりと握り締めた。 「‥‥‥‥。」 「う〜ん、なんて白く、美しい手だ。そんなアナタに一目惚れ☆」 膝をつき、ミューの手の甲にキスをした。 「それじゃあいってみよう!この番組の趣旨はわかってるかな?」 うつむいたまま無表情のミュー。 「‥‥‥‥‥‥。」 キスされた拳がグッと握られた。 「てめえに握られても‥‥‥」 「ホワッツ?」 「ちっとも嬉しかねぇんだよおおお!!!!」 アダムスマイルに鉄の拳がメリ込んだ。 一見たおやかに見える腕。 しかしその中には常人の何倍もの筋肉繊維が凝縮している。 プロの殺し屋「KILL-MAN」の指導の元で鍛え研ぎ澄まされた拳は立派な凶器だった。 しかし。 アダムはプロのコメディアンであり、ここは彼の舞台の上であった。 一瞬沈黙する観衆。 「アァ〜〜〜ウチィィィ!」 しかし両の人差し指で鼻の穴を抑えながらおどけよろめくアダムに皆が笑った。 しかし痛くないわけではない。 むしろ痛い。とんでもなく痛い。倒れそうなくらい痛い。 鼻の穴を抑えたのは鼻血が流れるのを防ぐ為である。 彼はプロだった。 ゲストがこういう"狼藉"を働いた時のマニュアルはすでに用意していた。 (Nooooo‥‥ガ‥‥ガッデ〜ム!) よろめきながら舞台の端に寄るアダム。 舞台の下で待機していたスタッフがそっとアダムに「それ」を手渡した。 『PiPiPi‥‥』 ミューの携帯が鳴った。舞台の上だが構わず電話に出るミュー。 グラス兄弟からだった。 *『ミ、ミュー様!あ、あんた』『何ちゅう事やってんすかあ!?』 「ああ?アタシの手にチューしやがったからこっちもお返しの「誅」をしてやったんだよ」 *『まずいですって!』『この番組生放送なんですよっ!』 「え、そうなの?じ、じゃあなんかフォローしなきゃ‥‥」 携帯を持ったミューにアダムが歩み寄ってきた。 「あ、あの、Mr.アダム‥‥」 「オーケーオーケーベイビー、そんな君にプレゼントだ」 「え?」 飛び散るクリーム。高速でミューの顔面にパイがぶつけられた。 ズルリと紙製の皿が滑り落ちる。白いクリームまみれのミュー。 「‥‥‥‥。」 ミューの手にあった携帯が『バキッ』と握り潰された。 「終わった‥‥」「終わったね‥‥」 グラス兄弟は胸の前で十字を切り、天を仰いだ。 「アダム・ショウが‥‥」「血で染まる‥‥」 |
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