トルーパー

4 ストライク・バック


「・・・・・な、な、な、」
プロトは、指令を聞かされたとき、心臓が破裂するかと思った。
たまらず、人差し指を立たせる。
「も、もう一回お願いします・・・」
しかし、答えは変わらず。
九月製作中の機動兵器とやりあうこと、午後はまた別の仕事。
・・・・・マジ?
ちょっと、まて。おちつけ、おちちゅけ、(動揺の表れ)
あれか?前々回のロボオタク発言に関して、まだ怒ってんのか?
それとも、あの仮面ライダーヤロウの差し金か?
一応、反論をしようとしたが、有無を言わさず、
「行け。」
「・・・・・・・・・・く・・」
世の中って甘くないなあ・・・

「それで、理解しましたか?」
「・・・はい。」
っと一応は言っているがはっきりいって五十%は脳に入ってない。
いや、半分あるだけマダましかもしれない。
プロトは、ケンブリッジ中退の成績から見ても、
・・・・いや、その前のすれすれの成績から見ても、
学力はない。
だが、これは学力どうこう以前の問題であると思う。
「さらに、ここのエントロピーが・・」
こんな相対性理論並みに小難しい事を小一時間、
おまけに、隣にゃ、
「仮面ライダーかよ・・・」
「は?」
「いえ、どうぞ続きを。」
「そうですか、ではここが・・・」
プロトはどうもこの仮面ライダー(いや、今は違うが、人間形態だが)
は苦手である。
さて、と。
プロトがここ研究棟に来てから小一時間が経過している。
その間、プロトはずっとロボのウンチクを聞き続け、
隣にいるのは仮面ライダーこと、中尾氏である。
「・・・・・・・でしょうかね。まあ、やはり、ロンギヌスの槍が、
 妥当という事で。」
そこまで、言い終えてようやく、
「あ、調整してきます。
 それから好きなようにやり合いますので。」
いやあ、そりゃあ心から遠慮したいなあ。
なーんて言えるわけもなく、九月は颯爽とあの巨大ロボに乗り込む。
ふと、プロトは視線を感じた。
・・・・・中尾であった。
「・・・・・な、なんざんしょ?」
無言。中尾は無言。これが怖い!すごく怖い!たまらない!
「いや・・お前のような奴がよくもまあ、ここで、」
「?」
「ここで、生きていけてるな、と思った。」
「ああ。」
納得。するのもやや恥ずかしい気がするが。
確かに自分はこの場にそわない人間である事は、プロトも熟知している。
「その、お前のような奴が・・・」
「・・・・?」
「ここでかろうじてやっているような奴が・・」
なんだか、いやな予感が漂って来ている気がする。
そういえば、ひまわり共がいない。ここらにはいつもいるのに。
「真紀様を侮辱するとは・・・・!」
やべえ・・・これはやべえ・・・
やられる。
しかし、すさまじい炎をあげていた中尾は、急に元の、
沈黙無口さんに戻った。眼が、ある一点を見続けている。
その視線の先には・・・
「ああ。なるほど。」
レイファーガ、だ。起動したレイが、その雄姿を見せていたのだ。
中には九月がいるのだろう。
「・・・・・・・・・・・!!!!!!!!」
そういえば、今日の任務は!そしてここは!バトルステージになる所だ!
九月の声がスピーカーをとおして響く。
「いきます。」
「たんまっ!」
なんて聞くはずはない。

「ぎょえええええええええ!」

毎度舞度の事ながら、自分の丈夫さには悲鳴が上がる。
ふみつぶされかけても生きてるだとう?どんな作り方したんだ、この女。
「いい、運動になりましたか?」
「・・・・・・はあ。」
といって、プロトはひびの入ったゴーグルをさすった。
「それはあとで替えを出しておきます。それはそうと、」
「は?」
「牛丼でも一緒にどうですか?」
・・・・・・・・嬉しい。腹が減っている。飯をおごってもらえるのは、
嬉しい。のだが、
「すいません、遠慮します。」
「そうですか。」
プロトにはこれ以上、中尾の心の炎と、九月のウンチクに耐える、
気力がなかったのだ。
棟を出るとき、中尾に睨まれた、気がする。

それにしても。
中尾のあの感情も一応は恋、なのだろうか?
彼は昔、元九月に殺されかけ、今の九月に救われたと聞く。
助けられた恩義というのか、それともそこから発展した感情なのか、
どちらかはわからないが。どっちにしろ、プロトは、
「いいなあ。」
と、思うのである。
信頼できる人がいるのは、いいことだ。
「そういえば、午後の任務って言うのは・・・」
指令書を見て、プロトはうめき声を上げた。
二月に行って書類整理の手伝いだとう?
・・・・・・・・・。
「そうか、それでひまわり共、朝から消えてんだな。」
信頼できる人が、人が、ほしーなー、と、思う今日この頃である。
もっとも、その後ひまわり共に牛丼をおごられて、
労をねぎらわれたのだが。


 


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