トルーパー
5 ダビデ
| たまには、いや、本当にたまにだが、プロトだって読書する。 しかも、学力をつけようかな、なんていう儚い思いがあったりする。 ああ、面白い。面白い。 聖書って読んでるとおかしな文章が出てきて微妙に笑えるんだよなあ。 「こら。」 「いて。」 突拍子もなく後頭部をどやしつけられて、プロトは驚いた。 「なんだよ、ひまわりかよ。」 「・・・・・聖書か?どっからこんなもの持ってきた。」 「いや、議長にかしてもらった。暗いんだよなあ、これ。」 無表情のひまわり人間の顔が心なしか、呆れてるように見えた。 「・・・・・・・・・・・・・仕事は?」 よく見ると、床にはモップが散らばっている。 「いや、だいたい終わったし。ゆっくり読もうかと。」 「あのさあ、せっかく仕事を放り出して読書中のお前には悪いんだけどさ 仕事だよ。」 「なんの?」 「議長がお呼び」 ぴた、と硬直。空気が硬直。 「・・・・マジ?」 「ほんと。」 うそだろ、と、プロトは大きな息をついた。 そして、続きを読み始める。ダビデのところだ。 巨人ゴリアテに果敢に挑んで勝利を収める少年ダビデ。 格好いいなあ、と、思うのである。 「・・・いったほうがいいと思うんだけど。」 「・・・やっぱりそうだよなあ。」 しかし、まったく議長に呼ばれる事など、プロトには思いつかない。 なにやったんだろう。 本を閉じて、なにがなんだかという心持で、議長の部屋に入って、 ご挨拶して、仕事を聞いた。 「プロト・ガルベット。24歳。独身。 暦に入っているが、月に所属していない自由機動員。」 プロトは突然自分の調書を開かれて、はいと答えられなかった。 「さらに、他の月を点々とし、自由に仕事をしている。 間違いないな?」 「・・・・はあ。」 「ならば、話は早い。」 「は?」 議長は、丁寧な言葉遣いで言った。 「ちょっといってほしい所があるのだよ。海外だがな。」 とてつもなく長い学園名を覚え切れなかった。 ので、住所だけを聞いた。 おっしゃ、まちがいあらへん、と、確認して、入ろうとして、 ・・・・やめた。 授業中だったのだ。さすがに不審者が入っては通報される。 ここは、放課後までに家に行って、帰ってくるのを待とう。 そう決めて、プロトはふらふらと、はじめて来た、 日本の大地を歩き続けていた。 プロトは今、いつものヘルメットにジャージという、 わけのわからない格好でいる。 ・・・・・・バイクを持ってきて、助かった。 ぎりぎりで走り屋に見えるだろう。 「んで、どうやって見張るんだよ。相手は元幹部だろ、 勝ち目はないぞ。」 ジャージの中に隠れていたひまわりが言った。 「いや、やりあうのもメンドい。仕事を終えてさっさと帰る。 ・・・・の、前に。」 「なにすんの?」 「ソバを食っていこう。未体験なんだ。つるつるっとすするのが。」 「おいおい。」 そばを食い終え、満足した所で、仕事開始。 とおーくから、望遠レンズで見張る。 「おーいたいた。出てきた出てきた。なんだ、お友達がいるよ。」 「みしてみして。」 ひまわりと望遠鏡を取り合いつつ、ターゲットを見張る。 といっても見張るだけ。今後の参考にするべく、 生活状況や身辺状態その他もろもろの調査をする。 「なーこれってさ。」 プロトが言った。 「ストーカーじゃないか?」 「気のせいだよ。」 とかなんとか言っているうちに、動きがあった。 お友達と別れて人通りの少ない道にターゲットが入った途端、 二メートルの黒人が現出した。 別働班の刺客である。 「なんだよ、きいてねえぞ、こんなの。」 とかなんとかぼやいているうちに、ターゲットはいともたやすく、 黒人をはったおした。 「・・・・強いな、さすがに。」 ひまわりが唖然とした口調で言った。 「いや、そりゃそうだろって、でなきゃこんな面倒くさい事しないよ。 オレが。」 「それもそーだ。」 「・・・すごいよな。」 プロトが誰に言うでもなしに言った。 「自分の考えで自分のいたところから飛び出すなんてそうはできないよ。 しかもでっかいのに一人で立ち向かってるんだよな。」 いや、よく考えてみると一人ではない。 友人がいた。 あの、ダビデに似ているかな、と思った。 それにしても、一人でいても復数でいてもころころと表情の変わる人だ。 見ていて飽きない。 「・・・晩飯はどうする?」 「たまにはファミレスにでも行くか。シャバでしか味わえないしな。 あのやっすい味は。」 ひょっとしたらターゲットは自分達に気付いているかもしれない、 プロトもひまわりもそう思っていた。 「・・・・ま、どうでもいいか。」 小さく呟いてプロトはターゲット・・・元八月を見張っていた。 明日まで、この任務は続く。 |
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