血塗られた歴史と炎
ラウンド9「1800年前の過去(前)」
「どういうことだよ!?説明しろよ」
京は庵に向かってその言葉を強く言い放った。
「かつてこいつの一族、九禄(くろく)の一族は、もともと
持っていた『気』を高めるために、貴様の一族、
草薙家に弟子として入っていたことがあったらしい…」
京とは逆に、静かに、ゆっくりと語りだす庵。
それは、遠い昔の出来事…
☆
『九禄の者、気を『炎』に変えるには、まず…』
『手を前に出すんですか?』
『根本的に違うぞ……』
1800年よりさらに昔、『気』を操ることのできる
九禄の当時の伝承者は、草薙の力に憧れ、
その炎を使えるようにするために、草薙家に
弟子入りしたという。
ただ、一族の数がさすがに多かったので、八神がそれに
なる前の名、一族、八尺邁も草薙と協力して
九禄を鍛えた。
それこれ数か月。
『草薙殿!八尺邁殿!見てください!』
『九禄の者ではないか。どうした?』
草薙が八尺邁と二人で武術の特訓をしていたところ、
ある九禄の声が聞こえた。
『ほら!』
九禄が閉じていた右手を開くと、噴き出すような紅い炎が
手に燃えさかる。
『…すごいな…本当に炎を出せるようになるとは』
草薙は正直に驚いた。いくら強い気を持ってても、
これを炎に変えるには最低でも1年近くかかるはず。
それをこんなにも早く…。
『ふ……なら、俺たちと闘ってみるか……?
俺は炎を見ただけでは満足せぬ』
八尺邁は九禄の炎を試そうと挑戦的なセリフを
投げかけた。
『八尺邁!』
止める草薙だが、
『いいですよ……!!実戦も、修行のうちです!』
九禄の口からはそういうセリフが返ってきた。
『……実はそれを、待っていたんだ』
どうやら草薙自身も、炎が使えるようになった九禄と
闘いたかったようだ。
自分の弟子の力、とくと確かめたい!
『いくぞ!』
『はいっ!!』
「そんな事をやりながら、九禄の一族は力を
つけていった。だが」
「……だが……」
と言ったのはリュウ。
「だが……」
「なんだ……」
「聞きたいものだな……」
全員の「なんだ」を聞くと、庵は一呼吸おいて、
再び始めた。
「九禄は知らないうちにある力に惹かれていき、
そして手を出した……それは」
「俺が話してやるよ」
庵の話は、九禄…桐生のこの言葉で止まった。
「それの名前は……草薙、お前もよく知ってる……
『オロチ』だよ!」
☆
強くなりたい、師を越えたい、自分を高めたい…!!
九禄は、そんな事を思っていた。
そして、迎えた運命の夜。
☆
『この不可解な気持ちはいったい……』
いつからか、九禄は、何かが心の中で
モヤモヤして、寝付くことすらかなわなくなっていた。
そんな時、頭の中に、なにか声が響く。
『力が欲しいか……?』
『だ、誰だ!?』
『…フフ…うわべは真剣に技を磨いていても、
本当はどこか焦っているのではないのか?九禄の者よ』
『………!!そんなことは………………………………』
だが、これ以上なにも言うことはできなかった。
それは最近の生活から修行態度、それにまんべんなく
現れているうえ、重い自覚症状があったからだ。
『……どうすれば………』
もはや落胆するしかなかった九禄。だが。
『草薙を殺せ。そしてその肉体を我に捧げよ。
そうすればお前を強くしてやる』
この言葉が、九禄の悪意に炎を灯す。
☆
それから数日、満月の夜…のはずだが、今日は雨。
月は見えない。だが。
『炎の気配だと!?』
草薙と八尺邁が特訓を終え、修行場の小さな家で寝ようと
したところ、修行場から見える山に白い煙とそれに
舞うように炎の渦が。
その原因を追求するべく、山へと急ぐ2人。
☆
『なんだこれは……』
雨の中を傘無しで走ったせいか、履いてきた足袋は
ぐっしょりと濡れていて、服もびしょびしょに
なっていた。
だが、もっと驚くべきは、道端で倒れている
人間たちと、それから雨といっしょに
流れる大量の血。
血が固まってないところからして、今、なにかに
やられたのだろう。
『どうした!何があったと言うんだ!!』
八尺邁がさる男の後頭部を持って起こし、事情を聞く。
その男から返ってきた言葉は。
『……う…手か……ら……炎……が……み……え……』
男はそこでこと切れた。
『九禄……まさか……オロチに!!』
『そそのかされた、か……となると、狙いは恐らく』
『私達、だな……』
運命を言うかのごとく、雨は冷たさと強さを増す。
ラウンド10に続く
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